デリバティブの基礎の基礎(1)フォワードと裁定取引
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このシリーズでは、株、債券、その他アセットクラスに限らず、デリバティブの基礎となる考えを解説していきたいと思います。
デリバティブを考えるときのもっとも根本的な思想として「将来のキャッシュフローを現在価値にディスカウントする」というものがあります。今そんなことを言われてもピンとこないかも知れませんが、これから数回にわたって、まずはこの考え方を習得しましょう。
このシリーズは、幣著『実務家のためのオプション取引入門』の第1章および第2章より抜粋して解説したいと思います。
「将来のキャッシュフローを現在価値にディスカウント」するという考え方を見るために、まずフォワード(Forward)という概念をおさえておきましょう。
フォワード契約とは、二者の間で、将来のある時点にあらかじめ決められた価格で対象となる資産を売買する契約のことを言います。日本語では、先渡契約と訳されます。契約ですから、履行する「義務」が生じます。まず、このフォワード契約の価格を計算するところから始めます。
例として、1 年後にA株を1 株売買するというフォワード契約を考えてみます。A株は現在100 ドルで取引されており、配当は支払わないものとします。また、金利は5%だとしましょう。このフォワードの価格はいくらでしょうか。
これは、裁定取引という考えを利用すると求めることができます。裁定取引とは、似かよった商品間における価格の乖離を利用して利益を上げる取引のことです。アービトラージ(Arbitrage)とも言います。どういうことか、実際にみてみましょう。
今、このフォワードが現在の株価よりも10%高い110ドルだったとします。すると、以下のような裁定取引によって無リスクで利益をあげることができてしまいます。
現在
- 現時点で銀行から100ドルを借りてA株を購入する。
- 1年後に110ドルでA株を売るように、フォワードをショート(売りのポジションをとること)する。
1年後
- 契約にしたがって、A株を110ドルで売る。
- 金利をつけて105ドルを銀行に返済する。
つまり、1 年後に110 - 105 = 5ドルの利益を無リスクであげることができたわけです。逆に、このフォワードが90ドルだったとしたらどうでしょう。
現在
-
現時点でA株をショートして100ドルを受け取り、その100ドルを5%の金利で運用する。
-
1年後に90ドルでA株を買うように、フォワードをロング(買いのポジションをとること)する。
1年後
- 金利がついた105ドルを受け取る。
- 契約にしたがって、A株を90ドルで買ってA株のショートを手じまいする。
この場合は、105 - 90 = 15ドルの利益を無リスクであげることができました。以上の議論から、フォワードをロングする側、ショートする側の双方にとって公正な価格は、裁定取引が存在しないような105 ドルであるべきです。
これがこのフォワードの公正価格です。株価が将来何ドルになるかは一切関係ないことに注意して下さい。この、「裁定機会が存在しない」という仮定のもとでフォワードの公正価格を求めるという考え方はとても大切ですから、是非マスターしておきましょう。
次回は、「単利と複利」について見ていきましょう。