佐藤茂のときどき真面目な金融日記

とある外資系トレーダーが綴る、金融中心かと思いきや雑多なブログ

デリバティブの基礎の基礎(5)いろいろな金利指標

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前回では「適切なディスカウントレートを用いて将来の価値を現在の価値に換算する」ということの意味を見ました。現実にはそんなものは無いのですが、リスクの無い資産に対しては、無リスク金利なるものでディスカウントすれば良いと言いました。

世の中には、一応無リスク金利の候補とみなされるいくつかの種類の金利があります。今回はそれを見ていきましょう。今文字の説明だけを見ても分かりにくいかもしれませんが、いくつかについてはまた後で詳しく解説します。

 

 

国債ゼロレート

市場で取引されている国債の価格から導出されるディスカウントレートです。例えば円資産の無リスク金利は円債、ドル資産の無リスク金利は米債の利回りを使うというものです。ディスカウントレートとして使えるのは、国債の「ゼロレート」であって、いわゆる「利回り」ではないので要注意。

 

LIBOR

「ライボー」と発音します。LIBORは一定の格付け以上の銀行間でお金の貸し借りをする際につく金利のことを言います。高格付けの国際銀行を対象としているので、デフォルトする確率はほぼないとみなされています。しかしながら、銀行の信用リスクを含むため、国債よりはリスクが高いといえるでしょう。

 

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通常期間は12か月以内の短期で、USD、EUR、GBP、JPY、CHFの5通貨に対して、翌日、1週間後、1か月後、2ヶ月後、3か月後、6か月後、12か月後にお金を返済する際の金利がICE(Intercontinental Exchange)から発表されています。以前はイギリスの銀行協会であるBBA(British Banker's Association)が発表していたのですが、不正操作の横行が発覚して以降はICEの管轄となっています。現在、LIBOR改革の議論が進んでおり、いずれLIBOR自体が消え、より透明性の高い金利の指標の登場が期待されています。

とはいえ、現在でもありとあらゆるところでLIBORが金利の目安として採用されており、なかでも3か月物と6か月物は、企業のローンや、FRA(Forward Rate Agreement)、スワップをはじめとする種々のデリバティブで頻繁に基準金利として活躍しています。

LIBORは、国債の「利回り」とは違い期中にキャッシュのやり取りが存在しないことを想定しており、「ゼロレート」です。

 

EURIBOR

Euro InterBank Offered Rateの略で、「ユーリボー」と呼びます。LIBORの欧州限定版です。欧州の銀行間でのお金の貸し借りにつく金利で、対象通貨はEURのみとなります。

 

TIBOR

Tokyo InterBank Offered Rateの略で「タイボー」と呼びます。TIBORの日本円版です。

 

フェデラルファンド金利

Federal Fund Rate、略してFFRともいいます。アメリカの金融機関の間でお金の貸し借りをする際につく翌日物の金利です。アメリカの銀行は、アメリカの中央銀行に相当する連邦準備銀行(FRB)に、一定額の預金を預けておくことが要求されています。

そこで、その額に足りない銀行は、その額以上を持っている銀行からお金を借りてFRBにお金を差し出すのですが、その銀行間の1日のお金の貸し借りにつく金利がフェデラルファンド金利です。

連邦準備制度理事会(これも略すとFRB)は、米経済を適切にコントロールするための術として、このフェデラルファンド金利を公開市場操作で誘導します。その目標金利はフェデラルファンドターゲット金利と呼ばれ、定期的にFOMC(Federal Open Market Committee)から発表され、市場から大きな注目を集めています。

 

EONIA

Euro Overnight Index Averageの略で、欧州銀行間での1日のEURの貸し借りにつく金利です。EURIBORの翌日物金利です。

 

無担保コール翌日物

無担保コールO/N物とも言ったりします。O/NとはOver Nightの略で、要は翌日物のことです。フェデラルファンド金利やEONIAの日本版です。日本の中央銀行の誘導目標の対象となっています。

 

スワップレート

スワップレートとは、市場で取引されている金利スワップの固定金利のことです。金利スワップは簡単に言うと「同じ通貨の固定金利と変動金利を交換する契約」のことで、この際に変動金利の指標として使われるのがLIBORです。つまり、「固定金利とLIBORを交換する契約」です。

例えば、想定元本100億、満期3年、交換頻度6か月のスワップが3%で取引されているとします。ちょっとややこしいですが、それは100億円に対して、固定金利3%分の金利と、日本円6か月LIBOR(¥6mL)分の金利を6ヶ月後に交換するということを意味します。それを満期まで半年ごとに繰り返します。

 

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例えば、半年前の6か月LIBORが1.8%だったら、変動金利の支払い側であるB銀行は

 100億円 \times 2.8\% \times 0.5 = 1.4 億円

を支払って、代わりに固定金利である

 100億円 \times 3.0\% \times 0.5 = 1.5 億円

を受け取ることになります。こういった交換を満期まで続けるのが金利スワップです。スワップレートは、将来の一定期間におけるLIBORのある種の平均のようなもので、LIBORと同じく国際銀行の信用リスクを背景に市場でレートが決まります。一般にスワップレートは、先進国の国債利回りよりも高くなりますが、信用力の低い新興国の国債利回りよりも低くなります。スワップレートと国債利回りの差をスワップ・スプレッドと言います。

 

OISレート

Overnight Indexed Swapの略で、「オーアイエス」と呼びます。OISは金利スワップの仲間で、変動金利の指標として3ヶ月物や6ヶ月物のLIBORではなく、翌日物金利(日本の場合は無担保コール翌日物)を日次で複利運用した場合に得られる金利を使います。

例えば、想定元本100億、満期1年、交換頻度3か月のOISが3%で取引されているとします。ちょっとややこしいですが、それは100億円に対して、固定金利3%分の金利と、翌日物金利を過去3か月毎日複利運用して得られた分の金利を交換するということを意味します。それを満期まで3か月ごとに繰り返します。

 

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例えば、契約開始初日の無担保コール翌日物レートを O_1、次の日を O_2...として、最初の3か月の営業日が63日あったします。すると変動金利の支払い分は、

 100億円 \times \left(  \left(  1+ \frac{O_1}{365} \right) \left( 1+ \frac{O_2}{365}\right) \cdot \cdot \left( 1+ \frac{O_{63}}{365} \right)-1 \right)

となります。土日は除いて、その場合金曜日の翌日物レートに \times \frac{3}{365}をして複利運用していきます。固定金利の受け取り分は、

 100億円 \times 3.0\% \times 0.25 = 0.75 億円

になります。こういった交換を満期まで続けるのがOISです。2008年の金融危機以降は、無リスク金利としてLIBORよりもOISレートのほうが適していると考えられています。

 

次回は、今回説明したLIBORの改革について見ていきましょう。

 

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