債券の基礎(2)ゼロレートとブートストラップ法
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前回、債券の価格が、『デリバティブの基礎の基礎』で見たように、将来のキャッシュフローを現在価値にディスカウントして求められることを確認しました。その際に使ったのは、現在からキャッシュフローが立つ各時点までのディスカウントレートでした。
この時に使ったディスカウントレートを、ゼロレートと言います。スポットレートと言う場合もありますが、フォワードスワップの対比として通常のスワップレートのことをスポットレートと言ったりするので、混乱を避けるために当ブログではゼロレートに統一します。今回はブートストラップ法を用いたゼロレートの求め方、そしてイールドカーブについて説明したいと思います。
目次
ゼロレート
例えば、2.5年後に受け取るキャッシュを現在価値に直す際に使うディスカウントレートは、「今から2.5年後までその資産を連続複利で運用した時に、年率何%で増えるか」というものでした。反対に、2.5年後の価値をそれで割り引いて(ディスカウントして)やれば現在価値になるわけです。下のようなイメージですね。
新しく発行される債券の価格を評価するには、このディスカウントレートがほしいわけです。ところが、ディスカウントレートって、そんなすぐに分からなかったりします。社債などの場合、発行体のクレジットリスクが無リスク金利に上乗せされてややこしくなるので、発行体が政府の場合のディスカウントレートについて考えてみましょう。無リスク金利の候補ですね。
この「今から 年後までにかけて使うディスカウントレート」を「ゼロレート」(Zero Rate)と言います。
なぜ「ゼロレート」と言ったりするかというと、「ゼロクーポン債の利回り」(Zero Coupon Rate)に一致するからです。ゼロクーポン債とは、途中で利息(クーポン)を払わずに、最後に額面を返還して満期を終える債券のことです。利回りがマイナスとならない限り、債券価格が額面より安く発行されるために、「割引債」とも呼ばれます。
例えば、期間1.5年のゼロクーポン債が98円で取引されていたとします。
ですから、連続複利表示ではとなります。これは、最初の図の「今から18か月後までのレート」に他なりません。ところがひとつ問題があって、そううまい具合に、いろんな満期のゼロクーポン債が市場で取引されていないので、簡単にゼロレートが分からないのです。
ブートストラップ法
そこでゼロレートを推定するのによく使われるのが、ブートストラップという手法です。これは、手に入るゼロレートと、ゼロクーポン債以外の債券取引価格からゼロレートを推定する方法です。実際に見てみましょう。
今、半年払いで、クーポンが年1%、満期2年の国債があるとします。6か月、12か月、18か月のゼロクーポン債が存在し、その価格から対応するゼロレートが分かっているとします。
キャッシュフローは以下のようになります。
さて、この債券価格が98円で取引されているとしましょう。すると、2年のゼロレートRは、以下の式から求められます。
計算するととなります。このように、ゼロクーポン債がなくても、既知のゼロレートと、通常のクーポン債の価格から、未知のゼロレートを求めることができます。これがブートストラップ法です。
イールドカーブ
ここまで来て、「ん?」と思った方もいるかもしれません。そもそも債券価格を計算するのに、ゼロレートが必要だったんじゃないの?債券価格からゼロレートを逆算してるのっておかしくない?と。
おっしゃる通りです。ところがよく考えてみると、
ゼロレート 価格
という一方通行しか成り立たないわけではありません。今みたように、価格あるいは最終利回りが分かればブートストラップ法からゼロレートが求まりますし、ゼロレートがあれば価格および最終利回りが求まります。前回見たように、債券価格とその最終利回りは1対1の関係にあるので、価格が分かれば最終利回りが分かりますし、最終利回りが分かれば価格が分かることになります。
現実には任意の期間についてゼロクーポン債が取引されているわけではないので、簡単にゼロレートを知ることができません。そこで、現在の市場から手に入る価格・最終利回りから、例えばブートストラップ法を使ってゼロレートを求めるというのが通常の流れです。
つまり下の図のように、すでに市場で取引されているあらゆる債券の情報をもとに、相互に行き来しながら債券の取引をするというのが実際です。
その際によく使われるのがイールドカーブです。通常、単に「イールドカーブ」と言った場合、横軸に年限、縦軸に最終利回りをプロットしたものを指しますが、ゼロレートをプロットした、「ゼロカーブ」もよく使います。
具体的に見てみましょう。横軸に期間、縦軸に金利をプロットすると、例えば下の図のようになります。黒が最終利回りをプロットしたもの、青がゼロレートをプロットしたものだとしましょう。
すると、4年の最終利回りは、3年の利回りと5年の利回りの中間をとって、2.3%ちょっとかなと推定できるでしょうし、ゼロレートについても同様です。
対象が国債であれば、これらは「国債のイールドカーブ」ですし、スワップであれば「スワップのイールドカーブ」となります。当然、資産ごとにカーブが引けるわけです。このイールドカーブは極めて重要で、経済のサイクルと密接に関係しています。
今回はここまでです、次回はフォワードレートについて見ていきましょう。