いよいよ進むかGSE改革。ファニーメイ(Fannie Mae)とフレディマック(Freddie Mac)の民営化についてまとめてみた。
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こんにちわ。今日は、今アメリカの金融業界でホットなトピックであるGSE民営化について説明したいと思います。数多くのヘッジファンドや大手投資銀行が、千載一遇の金儲けのチャンスと見て首を突っ込んでいるなかなか面白い案件です。
GSEって何?
GSEというのはGovernment Sponsored Enterpriseの略で、日本語では「政府後援企業」とでも言いましょうか。主な役割として、みずから金融機関から住宅ローンを購入し、それを証券化してMBS(Mortgage Backed Securites)を組成、そしてそれを保証して投資家に売却することで米国の住宅ローン市場の流動性と安定化に一役買っています。
MBSについては下記をご参照ください。
そのGSEですが、具体的には以下の2つの企業のことを指します。
- Federal National Mortgage Association(通称 Fannie Mae、『ファニーメイ』)
- Federal Home Loan Mortgage Corporation(通称 Freddie Mac、『フレディマック』)
似たような企業に
- Government National Mortgage Association(通称 Ginnie mae、『ジニーメイ』)
というのがありますが、こちらは100%米国連邦政府所有の企業であって、GSEとは組織形態が異なります。これに対してファニーとフレディは政府以外の投資家も株式を保有する企業です。またGSEと違ってジニーメイ自身が住宅ローンを購入して証券を発行することはありません。あくまでも、住宅ローンの保証がメインの役割となっています。
GSE民営化とは?
さて、そのGSEですが、今アメリカで民営化の議論が進んでいます。
「ちょっと待て。ファニーとフレディはジニーと違ってそもそも上場企業だから既に民営化されてるだろ?」と思われるかも知れません。
ところが、GSEは現在、通常の民間企業とは異なり公的管理下にあります。
もともとGSEは民営化されていたのですが、金融危機を受けて2008年9月以降、政府の管理下に置かれてしまったのです。これを英語でConservatorship(コンサバターシップ)と言います。
2008年、サブプライムローン問題に端を発して米国住宅市場が崩落すると、ファニーとフレディは経営が破綻します。その年に政府がHousing and Economic Recovery Act of 2008(住宅経済復興法)を成立させると、その法律を背景にしてできたFederal Housing Finance Agency(FHFA、米連邦住宅金融局)という組織がGSEを管理下に置くこととなります。
その際、アメリカ政府がファニーとフレディの発行する優先株を買い取るという形で、実に1870億ドルもの資金がGSEに注入されたのですが、当然その原資は国民からの税金です。
そして10年以上経った現在までそのConservatorshipが続いているのですが、実はアメリカの住宅ローン市場はそれ以降急速に回復し、ファニーとフレディは政府の管理下に入って以降、凄まじい利益を上げています。
上述の通り、政府はGSEに1870億ドルの投資をしたわけですが、2019年3月時点で既に2860億ドルもの資金を回収しています。要は、今や世界屈指の優良企業なわけです。
『出典:Blueprint-for-Restoring-Safety-and-Soundness-to-the-GSEs-Final』
そこで、そろそろConservatorshipから外して民営化に戻そうという話なわけですが、実はこの話自体はずっと前から議論されていました。
ところがここ最近になってその機運がグッと高まりつつあるのです。
なぜ今GSE民営化なのか?
なぜその機運が今高まっているのか、いくつかのポイントがありますので見ていきましょう。
FHFAとNet Worth Sweepは違憲?
さきほど、政府はすでに2860億ドルもの資金を回収したと言いましたが、実はこの手法がいわくつきで、違憲なのではという意見があります。(ダジャレじゃないよ!)
2012年、住宅ローン市場の回復に伴いファニーとフレディが利益を出し始めると、当時のオバマ政権はその利益を全てFHFA経由で政府に流すように修正案を通します。
ファニーとフレディはもともと上場企業ですから、政府以外にも投資家がいます。ところが、その他の投資家には一切分け前を出さずに、利益はすべて政府が保有する優先株への配当という形で支払えと言ったわけです。
これをNet Worth Sweepと言います。純資産(Net Worth)となるはずの稼いだ利益をそのまま政府にササっとほうきで掃く(Sweepする)ように差し出すというイメージです。
当然その他の株主は不満で、各地で多くの訴訟が起きています。当初は原告側の主張が認められなかったのですが、ここへ来て風向きが変わりつつあり、判事から原告の主張をサポートするコメントが聞かれ始めているのです。
FHFAは、ファニーとフレディの後見人(Conservator)として作られた組織なわけですが、その後見人が利益を全部吸い取っているせいで、ファニーとフレディはいまだに独立するに十分な資本を内部に持てていないわけで、「全然後見人じゃないじゃん!」と言われるのも至極当然です。
またFHFAについては、その長官ひとりにあまりに多くの権限が付与されており、そもそもその組織構造自体が違憲だという判決も既が出されています。
このNet Worth Sweepですが、実はオバマケア資金に充当するために考案されたと言われています。そして、Net Worth Sweepに関するドキュメントの多くを当時の政権が非公開としていることが分かっており、それも含めて裁判のネタになっており、いろいろといわくつきなのです。
トランプ政権は民営化したい
トランプ政権はGSE民営化に積極的です。政権発足当初からの財務長官であるムニューシン(Steven Mnuchin)は、ことあるごとにGSE民営化は政府の優先事項のひとつだと言ってきています。
ひとつには、政府が圧倒的な大株主である限り、それは納税者をリスクにさらしていることに他なりません。ところが民営化して市場から多くの資金を集めれば、何かあっても投資家の自己責任にすることができます。
また、いずれにせよConservatorshipには遅かれ早かれ終わりが来ることは政府も認識しています。いつまでもNet Worth Sweepで利益を総取りできるほど甘くないことは政府も分かっているのです。
そもそも2008年の金融危機時に緊急避難的に導入された制度が、10年以上経ってアメリカ市場が完全に勢いを取り戻した今でも存続していること自体がむしろ不自然です。
トランプ政権がGSE改革を行わなかったとしても、その次あるいはそのまた次の政権下で議論に上がるのは明白です。
であれば、トランプ政権としてはGSE改革を自分の任期中に行ってそれを自分の実績にしたいというインセンティブが働きます。
また、実は政府は優先株の他に、行使価格0.00001ドルでファニーとフレディの普通株をそれぞれ市場全体の79.9%まで取得できるワラントを保有しています。
民営化の過程で、このワラントを行使して得た株式を市場に売却することで、1000億ドル超もの利益が政府に入り込むと推定されています。オバマがオバマケア資金捻出のためにNet Worth Sweepを使ったように、今度はトランプが壁建設のためにGSE民営化を推進するかも知れません。
新FHFA長官の就任
トランプ政権のGSE改革に対する本気度の表れとして、FHFAの長官にGSE民営化の急先鋒を任命したことが挙げられます。
FHFAの長官は、ワット(Mel Watt)というオバマ政権時代に任命された民主党出身の人物が5年間勤めていましたが、任期満了に伴い、トランプは新たにカラブリア(Mark Calabria)という人物を長官に任命しました。
カラブリアは副大統領であるペンス(Mike Pense)のチーフエコノミストを勤めていた人物で、GSE民営化の急先鋒とされています。
正式な任命には上院での承認が必要で、それまでの暫定としてオッティング(Joseph Otting)がFHFAの代理長官としてトランプに任命されたのですが、当然のことながら彼もカラブリアと同じくGSE改革に前向きで、カラブリアの正式就任までにその下地を作る役割を担うとされています。
さきほど、FHFAは違憲であるという判決が出ていると言いましたが、実は現長官であるオッティング自身がそれに同意しており、今後争うつもりが無いとさえ言っています。組織の長が、自分の組織が違憲だと認めているわけです(笑)
要は、FHFAの長官自身がFHFAを無くしてGSEを民営化する気満々なのです。
ヘッジファンドからの猛プッシュ
ファニーとフレディの投資家には、名だたる有力なヘッジファンドが名を連ねており、Blackstoneグループ創業者のシュワルツマン(Stephen Schwarzman)、サブプライムローン危機に乗じて荒稼ぎしたポールソン(John Paulson)、Pershing Squareのビル・アックマン(Bill Ackman)などがいるのですが、彼らが声をそろえてGSE改革を訴えています。
Net Worth Sweep問題が解決して、政府以外の投資家にも配当が支払われることになれば既存の株式を保有している彼らには大きなプラスです。
また、GSE改革のためにはファニーとフレディの資本増強が必須なのですが、市場から新たに株式公募をする際に、既存の株式価値も一気に上昇することは間違いありません。
彼らは、このGSE改革は千載一遇の儲け話だと考えているわけです。
中でもシュワルツマンはトランプの古くからの友人であり、トランプ政権の諮問委員会のチェアマンを務めるなど、トランプに大きな影響力を持っているとされています。
またポールソンは、当時はクリントン優勢と見られる中、キャンペーン中からトランプ支持を打ち出してトランプを資金面でも支えています。
要は、トランプ政権の影でGSE改革を猛プッシュしている既得権益があるのです。
まとめ
GSE改革についての現状と背景をまとめてみました。ファニーとフレディの民営化について、様々な思惑がうごめいているわけですが、かと言ってすんなりと民営化がなされるかと言えば、そこには当然さまざまなリスクが存在します。
史上もっとも先が読めない大統領トランプのことですから、気まぐれで方針転換する可能性もあります。
また、アメリカ市場が景気サイクルの終わりに近づき、住宅市場も頭打ちする中、今GSE改革をして政府の保証を弱めることが住宅市場にさらなる冷や水を浴びせる可能性も大いにあります。
FHFAとNet Worth sweepをめぐる裁判の判決も先が読めません。
ただ、いずれにせよ超巨大優良企業であるファニーとフレディの改革から目が離せないことには間違いありません。