佐藤茂のときどき真面目な金融日記

とある外資系トレーダーが綴る、金融中心かと思いきや雑多なブログ

債券の基礎(5)デュレーション

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前回はFRAとユーロダラーについて説明しました。

さて、『債券の基礎』というからには必ず説明しないといけないのが「デュレーション」(duration)という概念です。直訳すると「期間」という意味になります。このデュレーション、債券トレーダーにとっては非常に重要な指標で、自分のポートフォリオのリスクの大きさをザックリと把握するのによく使われます。

目次

資金の平均回収時間としてのデュレーション

債券のデュレーションとは、簡単に言えば「資金の平均回収時間」のことです。期間ですから単位は「年」となります。

 

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上のような債券のデュレーションはいくつでしょうか。3年後の満期にほとんどの資金が返ってくるわけですから、資金の回収期間は3年後と言ってもよさそうですが、途中で少しずつは帰ってくるわけで、資金の「平均」回収期間は3年より多少は短いと言ってもよいでしょう。それがデュレーションです。

定義としては、「キャッシュフローのタイミング(6か月、12か月...など)をその時に立つキャッシュの現在価値で重みづけした平均時期」となります。この際、現在価値にディスカウントするには期間ごとに異なるゼロレートを使うのが正しいですが、デュレーションの計算の際には、簡単のために最終利回りを使います。

重みづけを「その時に立つキャッシュの現在価値」で行うと言いましたが、それの総和が債券価格Bに他なりませんから、最終利回りを y とすると

 B= 1.5/(1+\frac{y}{2}) + 1.5/(1+\frac{y}{2})^2  + \cdot \cdot + 101.5/(1+\frac{y}{2})^6

となります。よってデュレーションは

 D = \left( \left(1.5/(1+\frac{y}{2}) \right)/B \right) 0.5 +  \left( \left(1.5/(1+\frac{y}{2})^2 \right)/B \right) 1.0 + 

  \cdot \cdot + \left( \left(101.5/(1+\frac{y}{2})^6 \right)/B \right)  3.0

となります。こうすると年の前にかかってくる各係数の総和は1になることが債券価格の式から保証されます。例えば、債券価格B=98だと最終利回りは[tex: y=3.71 \%]になりますが、この場合のデュレーションは D=2.89となります。

ここで導入したデュレーションを、最初に考えた人にちなんで「マコーレー・デュレーション」(Macaulay Duration)といいます。

金利感応度としてのデュレーション

実はデュレーションにはもうひとつありがたい意味があります。それを見るために、債券価格 Bの式を少しだけ変形してやります。両辺を利回り yで微分してみましょう。すると

 \frac{dB}{dy} = -\left( 1.5/(1+\frac{y}{2})^2 \right)\frac{1}{2}  -\left( 1.5/(1+\frac{y}{2})^3 \right)\frac{2}{2} + \cdot \cdot -  \left(101.5/(1+\frac{y}{2})^7 \right)\frac{6}{2}

となります。これの両辺に -(1+y/2)をかけてやると

 -(1+y/2)\frac{dB}{dy} = \left( 1.5/(1+\frac{y}{2}) \right)0.5  + \left( 1.5/(1+\frac{y}{2})^2 \right)1.0 + \cdot \cdot +  \left(101.5/(1+\frac{y}{2})^6 \right)3.0  

になります。この式の右辺、実はさきほどのマコーレー・デュレーション Dに債券価格 Bをかけたものに他なりません。

つまり、


 -(1+y/2)\frac{dB}{dy} = DB  


ですから、

 
 \frac{dB}{dy}/B  = -D/(1+y/2)


となります。この式、めちゃくちゃありがたいです。「利回りが y \rightarrow y+dy にちょっとだけ変化したとき、債券価格は B \rightarrow B+dB に変化するけど、その債券価格の変化率 dB/B (1+y/2)という係数だけのぞけば、デュレーション Dに利回りの変化分 dyをかけたものに等しいよ」と言っているわけです。

例えば先ほどの例で言えば、利回りが0.01%(これを1ベーシスポイントと言います。)上がったら、債券価格は

 \frac{dB}{B} = -2.89/(1+0.0371/2) \times 0.01 \% = -0.0284 \% 

だけ変化する。つまり、2.84ベーシスポイント下がるというのを教えてくれます。マイナスは、利回りが上がると価格は下がり、価格が上がると利回りは下がるという債券の基礎を意味します。

実際の価格に直せば、債券価格は98から97.97円になるというわけです。

ここで登場した、

 D_{\rm{mod}} = - D/(1+y/2)

を、さきほどの「マコーレー・デュレーション」に対して、「修正デュレーション」と言います。修正デュレーションは、「利回りが1ベーシスポイント変化した場合、債券価格が何ベーシスポイント変化するか」、つまり債券価格の金利感応度を教えてくれます。

マコーレーデュレーションと修正デュレーションは、 -1/(1+y/2)という係数の分違うだけです。つまりほとんどの場合たかだか数%程度しか違いがありません。債券トレーダーは、マコーレー・デュレーションと修正デュレーションを特に区別せずに、「平均期間」と「金利感応度」の2つの意味で単に「デュレーション」と言ったりします。

DV01

修正デュレーションは、「利回りが1ベーシスポイント変化した場合に債券価格が何ベーシスポイント変化するか」という意味でしたが、債券トレーダーからすると、「利回りが1ベーシスポイント変化した場合に、債券価格が何円変化していくら勝つか(負けるか)」というほうが直接的で有用な場合があります。そこで、修正デュレーションに債券価格をかけたDV01(ディービーオーワンと発音します。)を使います。要は、

 \rm{DV01}=D_{\rm{mod}}/10000 \times B

です。1ベーシスポイントは1/0000ですから、10000で割っています。

デュレーションやDV01は、債券トレーダーが自分のポートフォリオのリスクの大きさをザックリとみるためによく使われます。

例えば、総元本100億円で、ポートフォリオの平均デュレーションが5年であれば、

[DV01 = -100億円 \times 5 /10000 = 500] 万円

となります。つまり、金利が1bps上がると500万円損失が発生すると推定することができます。

しかし、これは利回り変化がわずかな場合の推定しかできません。また、さまざまな年限の債券を保持していた場合、どの年限でも利回りが一様に金利が1bps上がった場合の損益しか知れません。つまり、イールドカーブがどの年限でも上に1bpsだけ平行移動した場合の損益です。実際には、短期利回りが大幅上昇し、長期利回りは変わらないという場合もありますから、債券トレーダーは0~2年、2~5年、5~10年、10年~というように、期間ごとに分けてDV01を把握するのが通常です。

 

今回はデュレーションについて解説しました。次回は、レポ取引について見ていきましょう。

 

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