債券の基礎(6)レポ取引
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前回はデュレーションについて解説しました。
今回はレポ取引について説明したいと思います。
レポ(Repo)とは英語のRepurchase Agreementを略したもので、いろいろな形態があるのですが、本質的にはどれも同じで「債券と現金を一定期間交換する契約」と言えます。
目次
レポ取引
今述べたように、レポ取引とは簡単に言うと、「債券と現金を一定期間交換する契約」です。このとき、債券を差し出して現金を借りることを「レポ」、反対に債券を借りて現金を貸すことを「リバース・レポ」といいます。図にするとこうなります。
一定期間後に、差し出した債券を買い戻す、あるいは受け取っていた債券を売り渡すわけですが、この際、債券を貸していた側は、品貸料を受け取ります。一方で、借りた現金には金利をつけて返さなければなりません。この、金利から品貸料を引いたものをレポ・レートと言います。
(レポ・レート)=(金利)ー(品貸料)
です。
実は今説明した形は、レポ取引の中でも特に「現金担保付債券貸借取引」と言って、日本独特のものなのですが、これについては後で説明します。
GC(General Collateral)とSC(Special Collateral)
GC
今見たように、レポ取引には大まかに言うと2つの側面があります。「資金の貸し借り」という側面と「債券の貸し借り」という側面です。そしてレポ取引の主眼が「資金の貸し借り」にある場合、それはGC取引と言われたりします。
GCというのはGeneral Collateralの略で、強引に英語に訳すと「通常担保」とでも言いましょうか。要は、国債あるいはそれと同等の信用力さえあれば担保として差し出す債券の詳細は問わない取引です。
レポに出す側からすれば、あくまでも資金の調達が目的ですし、レポを受ける側も、まあなんでもいいからそれなりのものを出してくれればお金貸すよというわけです。実際には、中長期利付国債か短期のゼロクーポン債がほとんどです。
GC取引のレポ・レートを特にGCレポ・レートと言い、無リスク金利の候補として考えられています。
SC
反対に、「債券の貸し借り」という側面にスポットライトが当たると、それはSC取引となります。
SCというのはSpecial Collateralの略で、これまた強引に英語に訳すと「特別担保」とでも言いましょうか。要は、「特定のこの銘柄の債券を貸して欲しい」という場合に、現金を担保にしてその債券を調達するための手段がSC取引です。
特定の債券への需要が強まると、それを調達するためにはより多くの品貸料を払わなければなりません。その債券の保有者からすると、それを貸すときに高い代金をもらえるわけです。そうなるともう、その債券はGCレポ・レートでは調達できません。
(レポ・レート)=(金利)ー(品貸料)
ですから、この際のレポ・レート、つまりSCレポ・レートはGCレポ・レートよりも小さくなります。需要が強く、品貸料が金利を上回ればレポ・レートはマイナスになります。SCレポ・レートがマイナスになるのは珍しいことではありません。
株の世界でも同じです。通常、株を空売りするとそこから得た現金から金利を稼げるわけですが、借りるのが難しい銘柄の場合、空売りして稼げる金利よりも株を借りるコストが高くつくことはよくあります。
最割安銘柄
特定の国債がSCになる理由はいくつかありますが、よくあるのはそれが「最割安銘柄」になった場合です。
詳細は『ベーシス取引とは』に譲りますが、国債先物を売って満期まで保持した場合、受渡適格銘柄と呼ばれる、一定の条件を満たした現物債券を差し出して決済することになります。
例えば、日本の長期国債先物の場合、残存7年以上11年未満の10年利付国債がそれにあたります。先物の売り手、つまり現物を受け渡す側からすれば、その条件さえ満たしていればなんでもいいので、その中でもっとも安い銘柄を渡そうとします。
したがってその銘柄に対する需要が高まるわけですが、このもっとも安い銘柄が「最割安銘柄」です。英語で「Cheapest To Deliver」、略してCTDと言います。
レポ市場参加者
レポ市場は、期間1年以内の資金の調達・貸出を扱うマーケット(マネー・マーケット)としては最大の規模をほこっています。以下に、レポ市場の主な参加者を列挙します。
銀行・証券会社
銀行や証券会社は、その取引活動を通してすでに大量の国債を保有している場合がほとんどです。彼らからすれば、すでに所有している国債を担保に資金を調達することができます。また、ヘッジファンドを顧客に持つ証券会社の場合、後述するようにヘッジファンドのためにレポ取引を行ったりもします。
ヘッジファンド・リスクテイカー
ヘッジファンドは、預かり資金にレバレッジをかけて、その資金の何倍もの額の取引を行います。レバレッジのかけ方には、デリバティブ取引などいくつもやり方がありますが、レポ取引もその手段として使えます。
その前にまずヘアカットという概念を説明しましょう。$100の債券をレポに出して現金を借りる場合、$100分の現金を借りられるわけではなく、若干割り引いた額しか借りられない場合があります。その割引分をヘアカットと言います。例えば、ヘアカットが4%の場合は、$100の債券に対して$96の評価しかしないというわけです。
このような場合、下の図のように債券の購入とレポを同時に行えば、手持ちに$4しかなくとも$100の債券を運用できます。
レポ市場で$96を調達し、手持ちの$4ドルと合わせて$100の債券を購入して、それをそのまま担保として差し出せばよいわけです。
手持ち$4で$100の債券を運用できるので、25倍のレバレッジをかけられたことになります。
(レバレッジ比率)=1/(ヘアカット)
ですね。ヘアカットが0の場合、理論上はレバレッジが無限大となります(現実には手持ちゼロでは資金調達できませんが)。
レバレッジをかけて資金を運用するのは何もヘッジファンドに限ったことではありません。例えば、破綻直前のリーマン・ブラザーズは、自己資本に比して30倍以上のレバレッジがかかった資産を保有していましたが、借入の1/3はレポ取引による調達でした。
中央銀行
中央銀行は、短期金融市場における流動性の確保、金利の安定のためにレポ取引を使うことがあります。短期市場での流動性が枯渇していると思えば、市場から国債を買い上げて資金を注入します(リバース・レポ)。反対に、資金がだぶついていると思えば、レポ取引を行って国債を出す代わりに資金を市場から吸い上げるわけです。
例えば、中国の中央銀行である中国人民銀行がリバース・レポで何千億元を市場に注入したといったニュースはよく耳にするかと思いますが、まさにそのことです。
貸借取引と現先取引
実は、形態という観点から見ればレポ取引には大きく分けて2種類あります。「貸借取引」と「現先取引」です。どちらも本質的には同じです。結局、一方から見れば債券を担保にキャッシュを借りる、他方からすればキャッシュを担保に債券を借りるということには変わりありません。
貸借取引
一般に貸借取引とは現金を担保として差し出して証券を借り、一定期間後にその証券を返して現金担保を回収することを言います。つまり、「貸し借り」であって「売り買い」ではありません。
日本にはその昔、有価証券取引税というものがあって、証券を「売り買い」すると税金を取られました。それを避けるために、「貸し借り」という形でレポ取引が行われてきました。日本で行われているこの形態での取引は正確には「現金担保付債券貸借取引」と言います。つまり見方としては、「現金を担保にして債券を借りる取引」という解釈が一応正式なようですね。
ちなみに、有価証券取引税は1999年に撤廃されています。
現先取引
現先取引とは、現時点で債券を相手方に売って資金を調達、同時に一定期間後に決められた価格で買い戻す取引のことを言います。つまり「貸し借り」ではなく「売り買い」であって、正式には「買い戻し条件付売買」と言います。反対の立場からすれば「売り戻し条件付売買」となります。
国債の現先取引は日銀による公開市場操作の1つになっています。市場に資金を供給する際には、日銀が債券を買うことで現金を市場に提供、一定期間後に売り戻す「国債売現先オペ」を行います。反対に市場から資金を吸い上げるには、債券を売って現金を吸収し、一定期間後に買い戻す「国債買現先オペ」を行うことになります。
以上見たように、「貸借取引」と「現先取引」とでは若干毛色が異なるのですが、現金を担保に債券を調達、あるいはその逆を行うという意味においては本質的に同一のものです。
今回はレポ取引について見てきました。次回は、クリーンプライスとダーティプライスについて解説します。