佐藤茂のときどき真面目な金融日記

とある外資系トレーダーが綴る、金融中心かと思いきや雑多なブログ

債券の基礎(1)価格と利回り

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このシリーズでは、債券の基礎について解説したいと思います。当シリーズは『デリバティブの基礎の基礎』シリーズでの知識を前提としていますので、まずはそちらを読まれることをお勧めします。またこのシリーズは、次に続く『スワップの基礎』を読むための前提にもなっています。


債券とは


債券は英語でFixed Incomeと呼ばれます。まずイメージするのは国債や社債などだと思いますが、これらはいわゆるbond(これも日本語にすると「債券」)であって、Fixed Incomeの一部に過ぎません。他にも、証券化された住宅ローンや企業ローンなどもFixed Incomeに属します。

それではまず、bondについて説明します。

すでにご存じでしょうが、bondとは政府や企業が借金をするための手段として発行するものです。発行体は、最初にbondを発行して投資家に売ることで、その価格分の資金を調達することができます。その後満期まで定期的に利息(クーポン)を支払い、満期では最後のクーポンと同時にあらかじめ決められた額面を返済します。クーポンの値が固定されているものを固定利付債、その時の基準金利によって変動するものを変動利付債と言います。まず、固定利付債から見ていきましょう。

固定利付債

例えば、額面100円、利息3%、返済頻度6か月、満期3年の債券のキャッシュフローは下の図のようになります。債券発行体は、6か月おきに

 100 \times 0.03 \times 0.5 = 1.5

を支払い、3年後に101.5円を返済することになります。いくら借りられるかは、債券を売り出したときにいくらの値段がつくかによります。

 

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それでは早速ですが、この債券の価格はいくらでしょうか?それには『デリバティブの基礎の基礎』で見た「将来価値を現在価値にディスカウントする」という考え方を使います。

今仮に、発行体のリスクが適切に判断できたとして、上記債券の発行体が政府だった場合(つまり国債だった場合)と、A社(とある企業)だった場合の、各期間における用いるべきディスカウントレート(連続複利表示としましょう。)が以下のように分かっていたとします。

 

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高リスクのものほど高ディスカウントレートとなるのでした。この場合、政府よりもA社の方が返済不能になる確率は高いですから、A社のディスカウントレートの方が同期間の政府のディスカウントレート(無リスクレートと言ってもよいでしょう)よりも高くなっています。さて、将来のキャッシュフローをディスカウントして足し合わせれば現在の価格になるのですから、国債価格は

 1.5 \times e^{-0.01\times0.5} + 1.5 \times e^{-0.014\times1} +1.5 \times e^{-0.018\times1.5} +

 1.5 \times e^{-0.022*2} +1.5 \times e^{-0.025\times2.5} +101.5 \times e^{-0.026\times3} = 101.16

となります。A社債だった場合の価格は

 1.5 \times e^{-0.03\times0.5} + 1.5 \times e^{-0.034\times1} +1.5 \times e^{-0.038\times1.5} +

 1.5 \times e^{-0.042\times2} +1.5 \times e^{-0.045\times2.5} +101.5 \times e^{-0.046\times3} = 95.48

となります。発行条件が同じであれば、リスクの低い国債の方が価格は高いわけです。


利回り

最終利回り

次に、利回りという概念を説明したいと思います。イールド(Yield)とも言います。ときどき新聞に「新発10年国債の利回りが低下」とか出てきますが、あれです。

上のように、本来、将来のキャッシュをディスカウントする際に用いるべきディスカウントレートは期間ごとによって違うのですが、満期までのレートが全部一定だと仮定した場合の、そのひとつのディスカウントレートのことを利回りと言います。特に「最終利回り」あるいはYTD(Yield to Maturity)と言ったりもします。たとえば、上の3年国債の場合ですと、

 1.5 \times e^{-y\times0.5} + 1.5 \times e^{-y\times1} +1.5 \times e^{-y\times1.5} +

 1.5 \times e^{-y*2} +1.5 \times e^{-y\times2.5} +101.5 \times e^{-y\times3} = 101.16

となるyが3年国債の最終利回りです。この場合、y=2.58%となります。最終利回りの計算はExcelなどを使って解きます。同様に、A社債の最終利回りはy=4.58%となります。

ここで、債券の価格と利回りに関する重要な性質を見ることができます。つまり、まったく同じ債券について、リスクが上がったとみなされて価格が下がれば利回りは上がり、反対にリスクが下がったとみなされて価格が上がれば利回りは下がることになります。

 

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実は、大したことは言っていません。最終利回りは債券の期間中のディスカウントレートのある種の平均みたいなものですから、これまで何度も出てきたように、高リスクであれば高ディスカウントレート(したがって高利回り)で、低価格になるのは当たり前のことです。上の式を見ると明らかなように、固定利付債の価格と最終利回りは1対1の関係にあり、価格が分かれば最終利回りが求まりますし、最終利回りが分かれば価格が求まることになります。

パー・イールド

ある債券の価格が額面に一致するとき、その債権のことを「パー債」と言ったりします。そして、その「パー債」の最終利回りのことを「パーイールド」と言います。

また、ある債券の価格が額面を上回っている場合、その債権を「オーバー・パー」、額面を下回っている場合、「アンダー・パー」と言います。先ほどの例で言えば、ディスカウントレートが上の表のような場合、額面100円、利息3%、返済頻度6か月、満期3年の国債は95.48円なのでアンダーパー、A社債は101.16円なのでオーバーパーです。

これは、期中にもらえるクーポンとディスカウントレートの大小関係で決まってきます。例えば、先ほどの国債だと、最終利回りが2.58%で、もらえるクーポンである3%を下回っています。クーポンを現在価値にディスカウントする際に、クーポンより小さいレートでディスカウントするので、現在価値は大きくなります。反対にA社債の最終利回りは4.58%と、クーポンよりも大きな値でディスカウントするので、アンダーパーとなります。

すでにお気づきかもしれませんが、クーポンと最終利回りが一致するとき、その債権価格は額面である100円に一致し、パー債となります。逆に言うと、債券価格が100円のとき、その利回りはクーポンに一致します。

それを見るために、今度はさきほどの表のディスカウントレートが、連続複利表示ではなくて、単利表示だったとしましょう。クーポンの利率が3%と言う場合、それは半年ごとに1.5%を支払うということですから、パー債のクーポンと利回りが一致するということを見るためには、両方の表現を合わせておく必要があるからです。そこで、将来のキャッシュをディスカウントする際には「半年複利のディスカウントファクター」を使います。


 1.5 / (1+ \frac{y}{2}) + 1.5 / (1+ \frac{y}{2})^2 +1.5 / (1+ \frac{y}{2})^3 +


 1.5 / (1+ \frac{y}{2})^4 + 1.5 / (1+ \frac{y}{2})^5 +101.5 / (1+ \frac{y}{2})^6


が、最終利回りyの債券価格ですが、ここにy=3%を入れると、きちんと100になることがわかります。つまり、クーポン=最終利回りのときにパーとなります。

さきほど見たように、利回りが上がると価格は下がるわけですが、発行当初はパーだったものも、時がたつにつれて市場金利、つまりディスカウントレートが上昇すると価格が下がってアンダーパーになったりします。また、反対に金利が下落すると債権価格は上がりオーバーパーになったりします。

 

変動利付債


次に、変動利付債の価格を見てみましょう。例えば、額面100円、返済頻度6か月で、次回の支払いクーポンが6か月LIBORである満期2年の変動利付債を考えてみましょう。キャッシュフローは以下のようになります。

 

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実はこの債券、発行時の価格は額面価格と一致して、100円となります。満期時点から逆算して考えるとよく分かります。投資家は満期に、その半年前の6か月LIBORで決まった分の利息と額面100円を受け取ります。今、各時点での6か月LIBOR(単利表示)が以下の表のようだったとしましょう。

 

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すると投資家は、満期である24か月後には、

 100 + 100 \times 2.0%/2 = 101

を受け取ることになります。まず、24か月後の101円を18か月後時点での価値にディスカウントしてみましょう。18か月から24か月までのディスカウントレートがそのままずばり18か月後時点での6か月LIBORなのですから、それでディスカウントすると、

 101 \times \frac{1}{(1+2.0% \times 0.5)} = 100 円です。

つまり、満期時点での101円=18か月後時点での100円(額面)です。したがって、さきほどの変動利付債のキャッシュフローは、以下のキャッシュフローと等価となります。

 

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この債券における18か月後の受取額は、額面100円プラス、12か月後時点での6か月LIBOR(1.8%)分の利息なので、100.9円となります。ところがこれは、まったく同じように12か月後時点でのLIBORでディスカウントしてやると、12か月後時点での100円と等価です。

もうお気づきでしょうが、これを順に繰り返していくと、最終的に、発行時に投資家が支払うべき債券価格は額面である100円となります。

 

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つまり、変動利付債は、発行時点での価格は常に額面に等しくなります。これは、期中にクーポンを支払って、基準金利をレフレッシュした直後にも当てはまります。

さて、次回は、ディスカウントレートについてもう少し詳しく見てみましょう。

 

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