佐藤茂のときどき真面目な金融日記

とある外資系トレーダーが綴る、金融中心かと思いきや雑多なブログ

スワップの基礎(5)クロスカレンシー・スワップ=金利スワップ+ベーシス・スワップ

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スワップの基礎シリーズ第5回目です。

第1回では同じ通貨間で行う金利スワップ、そして第4回は異なる通貨間で行うクロスカレンシー・スワップとベーシス・スワップを見ました。ベーシス・スワップとは、クロスカレンシー・スワップのうち、変動金利と変動金利を交換するものでした。今回は、これら3つの間にある関係性を説明したいと思います。

目次

クロスカレンシー・スワップ=金利スワップ+ベーシス・スワップ

厳密性を排除すると、これら3つには大雑把に

クロスカレンシー・スワップ=金利スワップ+ベーシス・スワップ

という関係性が成り立ちます。これはキャッシュフローを眺めてみると分かります。今あなたは、各キャッシュフロー図の上側にいると考えてください。また、今回は紺色日本円、茶色はドルを表すように色分けしています。

図1は満期3年、6か月おきの円金利スワップです。あなたは固定(スワップレート)を支払って、かわりに変動金利を受け取っています。

 

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図2は同じく満期3年、6か月おきのドル円ベーシス・スワップです。あなたは期初にドルを渡して円を調達し、期中に変動円金利を払います。つまりドル円ベーシス・スワップをペイしています。

 

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図3は、同満期、同交換頻度のクロスカレンシー・スワップです。あなたはドルの変動金利を受け取って、円の固定金利を支払います。

 

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するとどうでしょう。図1と図2を足すと、期中の金利スワップからの変動円金利の受取とドル円ベーシス・スワップからの変動円金利のペイがキャンセルして、結果的に、図3のように期中には$LIBORの受取と、円金利スワップの固定金利にドル円ベーシス \alpha がくっついた固定金利のペイが残ります。

期初と期末にはドル円ベーシス・スワップからの元本および金利交換がそのままついてきて、図3のクロスカレンシー・スワップのキャッシュフローのようになります。つまり

クロスカレンシー・スワップ=金利スワップ+ベーシス・スワップ

というのが感覚的に理解できるかと思います。

ベーシス・スワップを利用したトレード

前回、ドル需要が高まるとベーシス・スプレッド \alpha が大きくマイナスになってくると言いました。この場合、もしもすでにドルを保有している立場(例えば米銀)であれば、そのベーシス・スプレッドを利しておいしいトレードをすることができます。

今、実質的に無リスクの国債で資金を運用すると考えましょう。ドル保有者からすれば

1.クロスカレンシー・スワップで円を調達して円債を買って運用

2.そのままドルで米債を買って運用

の2つから選べます(もちろんその他外債を買って運用しても構いませんが、今は米債か円債だけを考えます。)。それぞれの場合について見ていきましょう。

 

クロスカレンシー・スワップで円を調達して円債を買って運用

これまでと同じ、満期3年、6か月おき受取の円債を買った場合のキャッシュフローは下の図のようになります。あなたがドルを持っている米銀の立場だとしてください。

 

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まず、円債を買うために円を調達する必要があります。また、米銀の立場からすれば期中に入ってくる固定円金利はドルに替えたいので、まさに図3のようなクロスカレンシー・スワップを締結するでしょう。

つまり、米銀が円債を運用したときに得られる利回りは

図4と図3を足し合わせて

 (円債利回り)+($\rm{LIBOR})-(円金利スワップ)-(ドル円ベーシス \alpha)

となります。

 

ドルで米債を買って運用

これまでと同じ、満期3年、6か月おき受取の米債を買った場合のキャッシュフローは下の図のようになります。あなたはすでにドルを持っている米銀の立場だとしてください。

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金利リスクを避けるために、米債から期中に入ってくる固定米金利を変動金利に変えるために、同時にドル金利スワップを結ぶとしましょう。ドル金利スワップのキャッシュフローは下図のとおりです。

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すると、米銀がそのまま米債をを買って運用した場合に得られる利回りは図5と図6を足し合わせて

 (米債利回り)+($\rm{LIBOR})-($金利スワップ)

となります。

円債運用 vs 米債運用

さて、両者を比較してみましょう。受け取る $\rm{LIBOR}は両者ともに同じなので

 (円債運用時の利回り)-(米債運用時の利回り)=

 \left( ($金利スワップ)-(米債利回り) \right)-\left( (円金利スワップ)-(円債利回り)\right)

 -ドル円ベーシス \alpha

となります。

 \left( ($金利スワップ)-(米債利回り) \right)

はドル のスワップ・スプレッドそのものですし

 \left( (円金利スワップ)-(円債利回り) \right)

は円のスワップ・スプレッドそのものです。

つまり、その差

 ($スワップ・スプレッド)-(円スワップ・スプレッド)

がドル円ベーシスよりも大きければ、米銀は米債を運用するよりも、円を調達して円債で運用した方が儲かることになります。

利回りゼロでも円債運用

2018年7月現在、例えば5年債を見てみると、

$5年スワップレート:2.87%

$5年債利回り:2.72%

円5年スワップレート:0.09%

円5年債利回り:-0.12%

5年ドル円ベーシス:-0.42%

 

となっています。つまり、

  \left( ($金利スワップ)-(米債利回り) \right)-\left( (円金利スワップ)-(円債利回り)\right)

 -ドル円ベーシス = 0.36 \%

となっており、米銀は円を調達して円債運用したほうが儲かる状況になっています。円債利回りがマイナスなのにです(笑)

つまり、それほどドル円ベーシスのマイナスが大きくなっている。つまり、ドル需要がひっ迫しており、ドルを持っている銀行が強いわけです。逆に言えば、デフレで悩み、日銀政策によって運用利回りを出せない日本の金融機関は弱い立場に追い込まれているというのが現状です。

 

今回は以上です。次回は、為替ヘッジの手段である為替スワップについて解説します。

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