スワップの基礎(4)通貨スワップとベーシス・スワップ。(ヘッジコスト)=(金利差)+(ベーシス)である。
スポンサーリンク
前回はOISとテナーベーシスについて解説しました。
今回は、通貨スワップを見ていきましょう。通貨スワップは英語でクロスカレンシー・スワップ(Cross-Currency Swap)と言います。当ブログでも、クロスカレンシー・スワップと言うことにします。
これは金利スワップを少し複雑にしたもので、「異なる通貨間で金利を交換する契約」です。双方が固定金利の場合もあれば、一方は変動金利、他方は固定金利の場合もあります。特に、「異なる通貨間で変動金利と変動金利を交換する契約」のことを「クロスカレンシー・ベーシス・スワップ」あるいは略して「ベーシス・スワップ」と言います。当ブログでは単に「ベーシス・スワップ」と言うことにします。
クロスカレンシー・スワップ
早速見ていきましょう。典型的なクロスカレンシー・スワップは以下のようなキャッシュフローをとります。元本100億円相当、期間2年、半年ごとに固定円金利と変動ドル金利を交換するスワップです。
通常のクロスカレンシー・スワップは、金利スワップと違い、期初と期末に実際に元本の交換が行われます。上の例では、期初にA社が円を渡す代わりにB銀行からドルを受け取っています。スワップ締結時の為替レートは1ドル=100円だったとしています。$100MのMはmillionの略で、1millonは100万ですから、$100Mは1億ドルすなわち100億円になります。期末には、期初と同額の反対取引を行い、100億円がA社に、$100MがB銀行に戻ります。この時には、為替レートは締結時と異なっているでしょうが、期初と同じ為替レートを用います。したがってクロスカレンシー・スワップには元本に対する為替変動リスクはありません。(期中に得られる金利分は影響を受けます。)
ベーシス・スワップ
異なる通貨間の変動金利と変動金利を交換するスワップをベーシス・スワップと言います。キャッシュフローは以下のようになります。
これは、外貨が必要な企業がその外貨を調達するための手段としてよく使われます。例えば、日本円を保有する日系企業Aがアメリカに投資するためにドルを調達する場合です。
ベーシス・スワップも期初と期末に、期初時点で同意した為替レートで元本を交換します。100億円を受け取ったB銀行は、そこから発生する円金利を期中にA社に支払います。反対に$100Mを受け取ったA社は、そこから発生するドル金利を期中にB銀行に支払い、満期になると100億円と$100Mを元通りに交換します。
元本に対する為替変動リスクはありませんし、双方ともにその時々の変動金利が適用されます。また、交換頻度も同じです。
ところが、ベーシス・スワップは通常このままでは取引されません。一方にある一定のスプレッドを加えてスワップが締結されます。慣習として、スプレッドはドル以外の通貨の金利に対してつけます。上の例で言うと、100億円を手にしたB銀行が期中に支払う円金利は、日本円の6か月LIBOR+ になります。
このを「ベーシス・スプレッド」あるいは単に「ベーシス」と言います。この場合は「ドル円ベーシス」となります。また、ドル以外の金利を支払う場合、「ベーシスをペイ(Pay)する」、ドル以外の金利を受け取る場合は「ベーシスをレシーブ(Receive)する」と言います。上の例では、A社は「ドル円ベーシスをレシーブ」しています。
このベーシスがつく理由は多岐にわたりますが、一番大きな理由は、ファンディング需要です。例えば、上の例のA社のように日系企業がこぞってドル資産に投資しようとした場合、「期中に受け取る円金利は少なくてもいいからドルが欲しい」となります。その結果、ドル円ベーシスはどんどんマイナスになっていきます。反対に、その需要が和らぐと、プラス方向に動くことになります。
為替ヘッジコストとしてのベーシス
実は直近やわらいだものの、2016年後半にドル円のベーシスは非常に大きなマイナス値をとっていました。これは、従来日本国債を運用することで利益を確保してきた邦銀が、日銀の緩和政策によって悲鳴を上げ、高い利回りを求めてドル資産に殺到していたからです。
下の図は、期間1年もののドル円ベーシスの推移です。
日本の銀行が為替リスクを回避しながらドルを調達するには、日米間の金利差に加えてさらにこれだけの金利分をコストとしてあきらめないといけないわけです。もちろん、通常の為替取引をして日本円をドルに変えるだけでも良いのですが、その場合円高になると円換算で損失となるために、為替リスクをヘッジした上でドルを調達するには、ドル円ベーシスのマイナス分だけ余計にコストがかかると言えます。日本の銀行からすると
(ドル円調達コスト)=(日米金利差)+(ドル円ベーシスのマイナス分)
です。例えば米ドル金利が2.5%で円金利が0%、ドル円ベーシスが-0.5%だった場合、日本の銀行からすれば、円で換算するとドルを調達するためだけに年間3%もかかることになります。
為替ヘッジの実際
実際に日本の保険会社や銀行がドル資産投資のための為替リスクをヘッジする場合は、為替スワップの形でスポットと3か月フォワードの取引を同時に行い、それを3か月ごとに繰り返していくというのが通常です。
フォワードの価格は金利差とベーシスが織り込まれて取引されるため(もしもそうでなければ裁定取引ができてしまいます!)、ヘッジコストを知りたければ、単純にフォワードレートと現在のスポットレートを比較すればOKです。
例えば、2018年11月27日現在、金利差とドル円ベーシスを見てみると
USDの3か月LIBOR=2.7%
JPYの3か月LIBOR=-0.1%
3か月物ドル円ベーシス=-0.35%
です。これらはすでに年率換算されていますから、
(ヘッジコスト)=(金利差)+(ベーシスのマイナス分)=3.15%
です。
一方、3か月フォワードレートは、以下のようになっています。
スポット価格が1ドル113.50円(青枠)の時に、3か月フォワードが1ドル112.607円(赤枠)ですから、これは0.787%の円高です。これを年換算すれば
(ヘッジコスト)=0.787% × 4 =3.15%
となって、さきほどと一致します。もしも一致しなければ為替スワップとベーシススワップとの間で裁定取引が可能となります。
日本の保険会社や銀行がドルを買って為替ヘッジを行うには、現在1ドルを113.5円出して買うと同時に、3か月後には1ドルを112.607円で売るというフォワード取引をせざるをえないわけです。それがつまり年率3.15%のヘッジコストというわけです。
今回は以上で終わりです。次回は、第1回で見た金利スワップ、そして今回のクロスカレンシースワップとベーシススワップとの間に成り立つ関係性についてみてみましょう。