佐藤茂のときどき真面目な金融日記

とある外資系トレーダーが綴る、金融中心かと思いきや雑多なブログ

デリバティブの基礎の基礎(6)進むLIBOR改革。フォールバックの議論中。

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LIBORの改革が進んでいます。

LIBORとは、ありとあらゆる契約の決済金利に登場する金利指標のひとつです。ところが不正操作が発覚したため、LIBORに変わる新しい金利基準の議論が進んでいます。

特に、既に締結済みのデリバティブ契約について、LIBORがなくなった場合に代わりに何で決済すべきかというLIBORフォールバック(LIBOR Fallback)の議論がISDAより進められており、つい先日(2018年11月27日)、その議論の進展がISDAから報告されました。フォールバックというのは、従来のシステムが故障したときに代用として使われるものを指します。

ISDAとはInternational Swap and Derivatives Associationの略で「イスダ」と読みます。スワップなど、店頭デリバティブの標準化をつかさどる組織です。

 

 

LIBORとは

LIBORとはLondon Interbank Offered Rateの略で、「ライボー」と読みます。一定の格付け以上の銀行間でお金の貸し借りをする際につく金利のことで、高格付けの国際銀行のみを対象としているので、デフォルトする確率はほぼないとみなされています。

 

www.shigeru-sato.com

  

したがってLIBORは、無リスク金利の候補として従来より使われてきており、ありとあらゆるところで登場します。住宅ローンから、ユーロダラーなどの金利先物から、FRAからスワップから、なにからなにまでいたるところでです。

実際には、LIBORは銀行の信用リスクを含んだ金利であるため、無リスク金利ではありません。事実、信用危機のおきた2008年にはぶち上ったため、全然リスクフリーじゃないというのは周知の事実です。

まあそれは良いのですが、このLIBOR、その国際銀行間での不正操作が横行したために、改革が必要だということで、ここ数年ずっと議論が続けられてきています。

 

LIBOR操作不正

LIBORというのは、特定の銀行の間だけで決められる値です。日々、フィクシング(Fixing)という、まあ一種の談合のようなプロセスで決められるわけです。

そこで、LIBORを決める会員となっている銀行のトレーダーは、取っているポジションに利益となるように同銀行のLIBORの担当者に依頼をして、不正に上げたり下げたりしてLIBORを申請してもらっていました。LIBORは推定でおよそ350兆ドル!相当と言われる契約の決済基準になっていますから、0.01%の違いが膨大な損益につながります。

また、高いLIBORは低い信用力の現れでもありますから、意図的に低く設定されたりもしていました。

そこで、2017年7月、英金融規制当局であるFCAはLIBORを2021年に廃止し、新たな金利基準の制定に着手することを発表したのです。

 

LIBORフォールバック

と言っても、この新しい金利基準の制定は一筋縄ではいきません。

なにせ既に大量の契約がこのLIBORに紐づけられて締結されているわけですから、「この契約はLIBORじゃなくて新LIBORなるもので決済することにします」と急に言われても、当事者が混乱してしまいます。

また、当然既存の契約の買い手、売り手双方にとって納得感のあるものでなくてはなりません。

そこでISDAはLIBORが決済基準となっているデリバティブについて、LIBORに変わる決済金利の策定を、市場関係者からのヒアリング、コンサルティングを受けながら進めてきています。

 

OISレートに過去のスプレッドを上乗せ

新たな金利基準の候補となるのが、OISレートです。OISはOvernight Indexed Swapの略で「オーアイエス」と読みます。変動金利の指標として3ヶ月物や6ヶ月物のLIBORではなく、翌日物金利(日本の場合は無担保コール翌日物)を日次で複利運用した場合に得られる金利を使います。

多分、何言ってるかよく分からないと思いますので(笑)、詳しくはテナーベーシススワップと合わせて以下をご参照ください。

 

www.shigeru-sato.com

 

要は、OISの方が無リスク金利に近いわけです。

ところが、単純に、LIBORをOISレートで代用して決済基準とするわけにはいきません。

上述のように、LIBORは会員銀行の信用リスクを含んでいるので、OISレートよりも値が高くなっています。

したがって、既存のデリバティブ契約における変動金利の払い手にとっては、LIBORの代わりにOISレートの支払いで良ければ大満足ですが、受け手にとってはたまったもんじゃありません。

そこで、OISレートに、過去のLIBORとのスプレッドを何らかの形で上乗せしたものを、既存のデリバティブ契約の決済基準に使用という考えが浮かんできます。

つい先日(2018/11/27)のISDAからの報告はこのように考えに則ったもので、

「無リスク金利に何らかの過去のスプレッドを上乗せした値をLIBORフォールバックとする予定だ。詳細は未定だけどね。」

という内容のものでした。

 

繰り返しになりますが、これは結構重要な議論で、テナーベーシスのマーケットにかなりのインパクトを与えます。実際、米ドルの10年LIBOR-OISは報を受けて一気にタイトニングしています。

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『出典:Bloomberg』

 

はてさて、どうなりますやら。