スワップの基礎(8)CDS指数
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前回、個別の企業や国債に対するCDSを見ました。実はCDSには、個別の企業や国債に対するものだけではなく、複数の銘柄に対するCDSをまとめて指数化したものが存在します。
株で言うところの個別株と日経(あるいはトピックス)みたいなものですね。ただし、株式指数は直近の個別株の値から計算される単なる値ですが、CDS指数は取引することができます。
主なCDS指数
取引量の多い主なCDS指数として、iTraxx(アイトラックス)シリーズとCDXシリーズがあります。歴史的な経緯があって名前が分かれていますが、iTraxxはヨーロッパとアジア諸国を対象、CDXは北米とその他新興国を対象としており、現在はどちらもMarkit社が管理しています。
- iTraxx Europe Main Index
ヨーロッパの投資適格銘柄125社を対象。満期は3,5,7,10年物がある。 - iTraxx Europe Crossover
ヨーロッパの非投資適格銘柄50社を対象。満期は3,5,7,10年物がある。 - iTraxx Japan
日本の投資適格銘柄40社を対象。満期は5年物。 - CDX.NA.IG(NAはNorth America、IGはInvestment Gradeの略)
北米の投資適格銘柄125社を対象。満期は1,2,3,5,7,10年物がある。 - CDX.NA.HY(HYはHigh Yieldの略)
北米の非投資適格銘柄50社を対象。満期は5年物。 - CDX.EM(EMはEmerging Marketの略)
新興国の国債のCDSを対象。満期は5年物。
これらCDS指数は対象銘柄を等ウエイトで重みづけして構成されており、ざっくり言えば、対象銘柄のCDSの平均値を取引するようなものです。
構成銘柄は3月と9月の年2回、半年ごとに見直され、そのたびに新しいシリーズが発行されます。例えば、2018年7月現在、iTraxx japanはシリーズ29*1、CDX.NA.IGはシリーズ30が最新です。この最新のCDS指数を「オンザラン」(On The Run)といい、古くなったCDS指数を「オフザラン」(Off The Run)と言います。流動性は落ちますが、古くなったオフザランの指数も引き続き取引可能です。
下は、2017年9月20日に組成され、現在はオフザランとなっているiTraxx Japan Series 28のスプレッドの推移です。
CDS指数の買いはプロテクションの売り
で、ここがちょっとややこしいのですが、CDS指数を買った場合、それはプロテクション(保険)を売ったことに相当します。
(CDS指数の買い)=(プロテクションの売り)
です。
CDS指数は、半年ごとにその時の構成銘柄のCDS市場を考慮した上で、一定のクーポンがついた債券のような形で組成されます。
例えば、2018年3月20日に組成されたiTraxx Japanシリーズ29は、クーポンが100bps(つまり1%)で、買い手は3か月ごとに0.25%のクーポンを受け取る債券として組成されています。要は、指数の買い手はプロテクションを売っているので、プロテクションの買い手からクーポンを受け取るわけです。そしてこのクーポンは満期まで変わりません。通常の利付債と同じですね。
さて、市場のデフォルトリスクが高まってくると、当然個別銘柄のCDSスプレッドの平均であるCDS指数のスプレッド自体が上昇します。例えば150bps(1.5%)にまで上昇したとします。すると「CDS指数の価格」自体は減少します。
『債券の基礎(1)価格と利回り』で見た、固定利付債の利回りが上がると価格が下がるのとまったく同じメカニズムです。
例えば、クーポン100bpsで発行されたCDS指数を、デフォルトリスクが低くなってスプレッドが50bpsに低下した時に買って、デフォルトリスクが高くなってスプレッドが150bpsに上昇した時に売ったします。つまり、
(デフォルトリスクが低くなる)=
(CDSの売りから得られる利回りが低くなる)=
(CDS指数の価格が高くなる)
時に買って、
(デフォルトリスクが高くなる)=
(CDSの売りから得られる利回りが高くなる)=
(CDS指数の価格が低くなる)
時に売っているので、損をします。繰り返しますが、
(CDS指数の買い)=(プロテクションの売り)
なので、注意してください。
*1:
例えば、現在のiTraxx Japanのオンザランであるシリーズ29の構成銘柄は以下の40社です。
- アコム
- イオン
- ANA
- 富士通
- 阪急阪神ホールディングス
- 日立製作所
- 本田技研
- 伊藤忠商事
- JT
- JFEホールディングス
- 鹿島建設
- 川崎重工業
- 川崎汽船
- 近鉄グループホールディングス
- 神戸製鋼
- コマツ
- 丸紅
- 三菱商事
- 三菱重工業
- 三井物産
- 三井化学
- 商船三井
- NEC
- 日本製紙
- 新日鉄住金
- 日本郵船
- 日産
- 大林組
- 王子ホールディングス
- オリックス
- パナソニック
- リコー
- 清水建設
- ソフトバンク
- ソニー
- 住友化学
- 住友商事
- 住友不動産
- 東京電力
- トヨタ