佐藤茂のときどき真面目な金融日記

とある外資系トレーダーが綴る、金融中心かと思いきや雑多なブログ

サブプライムローン問題とはいったいなんだったのか(3)多分日本一わかりやすい解説

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今回は『サブプライムローン問題とはいったい何だったのか』シリーズの最終回となります。

前回までで、当時投資銀行が販売していたCDOというデリバティブの説明、そしていかにそれがモラルなく投資家に売りさばかれていたか、その実態を解説しました。最終回の今回は、不動産バブルの崩壊から金融危機の後始末までを見て行きたいと思います。

バブル崩壊の引き金となったARMSとは

当時、サブプライム・モーゲージの多くはARMSという形で発行されていました。ARMSというのはAdjustable Rate Morgagesの略で一種の変動金利なのですが、最初の数年は低い金利の返済で良いが、それが終わると一気に返済金利が跳ね上がるというものです。

最初の数年に提供される低い返済金利をティーザー金利(Teaser Rate)と言います。Teaseというのは、じらすとかからかうという意味ですが、ここでは借り手を引き付けるという程度の意味です。

例えば、典型的なARMSは、最初の2年は5%の固定でも、それ以降はLIBOR+6%に移行などです。ところが、当時の業界ぐるみの証券化ビジネスの中で、低所得者向けに1%もの低いティーザー金利でモーゲージが組まれていました。

そしてバブルの崩壊へ

AMRSのティーザー金利適用期間が終わると返済金利が跳ね上がるので、それに耐えられずにローンの返済不能となる人がでてきます。

2007年に、大量のモーゲージがティーザー金利適用期間を終えて高金利へとシフトしたのをきっかけに、ローンの返済が不可能となり差し押さえとなる物件が大量発生しました。

不動産バブルの崩壊です。

当然、モーゲージを担保としたMBS、それを組み込んだCDOの価値は大暴落し、値がつかないゴミ屑を大量に抱えたローン発行体である銀行や投資銀行は大損失を計上することになります。

関係各社の破産・救済。多額の税金投入へ。

投資銀行の中でもっともサブプライム・モーゲージを引き受けていたのがリーマン・ブラザーズでした。バブルがはじけると、彼らは保有していたCDOの価値を不正に高く会計処理します。しかしグリーンライト・キャピタルのデビッド・アインホーンに見破られて株価は暴落を続けます。そして最終的には救済されることなく破産へと追いやられます。

 

*詳細は以下記事参照。

www.shigeru-sato.com

 

また、CDOを組成するために大量のローンを購入する必要がありますが、投資銀行は当時、実に自己資金の30倍以上もの借金をしてまでローンの購入に走っていました。そのため、保有資産が少しでも減損すると、経営が一気に傾くという危険な状態にあったのです。

 

*もっともよく使われた借金の手法がレポ取引です。詳細は以下記事参照。

www.shigeru-sato.com

 

結局、当時の米5大投資銀行のうち、ベアスターンズはJPモルガン、メリルリンチはバンクオブアメリカに身売り、ゴールドマンサックスとモルガンスタンレーは純粋な投資銀行からの形態変更を余儀なくされ、リーマンブラザーズは破産することになります。

また、大手保険会社のAIGは、格付けAAAのCDOがデフォルトするわけないと、ひたすらCDOを対象とするCDSを売りまくってスプレッド代を稼いでいました。似たような3文字アルファベットでややこしいですね(笑)。

CDS(Credit Default Swap)というのはCDOに対する保険のようなもので、CDOがデフォルトすると保険の買い手にその元本分の代金を支払わなければなりません。ところが、大量のCDOが不履行になると彼らに支払う能力などありませんでした。結局AIGは多額の税金を使って救済されることになります。

また、低所得者にサブプライムモーゲージを発行しまくっていたカントリーワイド社やワコビア社もそれぞれバンクオブアメリカ、ウェルズファーゴに買収されることになります。

最終的に議会はTroubled Asset Relief Program(TARP)と称して実に7000億ドルという途方もない額の救済費用の投入を迫られることになりました。これらの源泉は国民の税金です。

モーゲージの発行体や投資銀行はそれまでにゴミ屑を大量販売することで荒稼ぎしてきたわけです。AIGは実体を鑑みずにひたすらCDSという保険を販売しまくっていました。これら企業の取締役は当時、数十~数百億円単位の報酬を受け取っていました。にもかかわらず結局あと始末にはなんの関係もない国民の血税が投入されたわけですから、たまったものじゃありません。

また、最大の被害者はゴミ屑を買わされた投資家です。その多くは年金基金や組合などです。その後彼らは投資銀行を相手取って訴訟をしていくことになります。

バブルの崩壊で稼いだヘッジファンド

一方で、この金融危機に乗じて大金を稼いだ者たちもいます。バブル崩壊の前から、サブプライム・モーゲージと証券化ビジネスの危険性はすでに広く認識されていました。いくつかのヘッジファンドはその危機の顕在化に乗じて大金を稼ぐことに成功します。

ヘッジファンドPaulson & Co.の創業者であるジョン・ポールソンもその1人です。彼は、サブプライム・モーゲージの破綻から利益を出せるようなデリバティブを買いたいとゴールドマンに話を持ちかけます。ゴールドマンは、サブプライム・モーゲージを原資産とするCDOを組成し、そのCDOのCDSを組み込んだ商品を組成します。これをシンセティックCDOと言います。もう何がなんだかわからなくなりますね(笑)。CDSは保険ですから、対象となるCDOがデフォルトすれば大儲けとなるわけです。

いずれにせよ、当時ポールソンはこのCDOのCDSから約1000億円を荒稼ぎしたと言われています。

またその他、マイケル・ルイスの著作『ビッグ・ショート』に登場するサイオン・キャピタル(Scion Capital)やフロントポイント・パートナーズ(Frontpoint Partners)も同様にCDOに対するショートポジションから利益を上げることに成功しています。

 

さて、3回にわたってお送りしてきた『サブプライムローン問題とはいったいなんだったのか』シリーズもこれで終わりです。

あれから10年、アメリカ株価は上昇を続けています。資金は再び証券化商品に流れ込んでおり、企業向けに貸し出された銀行ローンを担保とした証券であるCLO(Collateralized Loan Obligation)の発行高は、今年過去最高に達するとみられています。 米経済のクレジットサイクルが終盤に差し掛かるなか、来年あたりに一発来そうな気がするのは私だけでしょうか。。。