サブプライムローン問題とはいったいなんだったのか(1) 多分日本一分かりやすい解説
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2008年の金融危機から10年が経ちました。あれからアメリカ株価は文字通りの右肩上がりとなっていますが、そろそろ景気サイクルの終盤ステージに差し掛かっているという印象を持っています。
そこで当シリーズでは、『サブプライムローン問題とはいったいなんだったのか』と題して何回かに分けて2008年の金融危機の発端となった現象について解説したいと思います。ネット上でいろいろ説明があるのですが、断片的であったり分かりにくかったり、そもそも間違っていたりと、あまり良いものがなかったのであらためて整理してみることにします。
金融危機から10年たった今改めて振り返ってみることには、大きな意義があるかは分かりませんが、多少の意義はあるでしょう(笑)。それではまいりましょう。
MBS(Mortgage Backed Securities)
2008年に何が起こったのかを理解するためには、まずMBSというのを理解しないといけません。MBSを日本語で言うと、モーゲージ担保証券となります。モーゲージ(Mortgage)というのは住宅ローンのことですが、当ブログではそのままモーゲージと言うことにします。MBSとは、モーゲージから得られるキャッシュを裏付けとした証券のことを言うのですが、今言われてもなんのことやら分からないと思いますので、早速見ていきましょう。
MBSは以下の図のように生み出されます。
MBSは例えば、投資銀行などが発行します。彼らは、地域の銀行が住民に貸し出したモーゲージ(しつこいですが、単に住宅ローンのことです。)を買い集めてひとまとめにします(モーゲージプール)。
すると、毎月毎月住民からローンの返済があるので、モーゲージプールから一定のキャッシュが生み出されます。
言ってみれば、このキャッシュを受け取る権利がMBSです。定期的にクーポンを受け取ることができる債券と同じですね。MBSも債券(Fixed income)の一種です。
その際に、このキャッシュを受け取る権利に優先順位をつけます。優先的にキャッシュを受け取ることができるのがシニア・トランシェと呼ばれる部分です。次が、メザニン・トランシェ、そして最後がエクイティ・トランシェとなります。簡単ですが、これが「証券化」ということです。
トランシェ(Tranche)とはフランス語で「一切れ、一部分」という意味です。証券化されたものをリスクに応じて分割することをトランチング(Tranching)と言って、その結果生じる各部分のことをトランシェと言うわけです。
シニア・トランシェは、キャッシュを優先的に受け取ることができるため、もっともリスクの低い証券です。反対に、もしもモーゲージプールの中の一部のモーゲージが不履行となって、予定通りのキャッシュが入ってこなかった場合、まず真っ先に割を食うのがエクイティ・トランシェです。
例えば、上図のように、80%がシニア、15%がメザニン、5%がエクイティとなるようにトランチングされた場合、予定の85%のキャッシュしか入ってこなかった場合、エクイティ・トランシェの取り分はゼロになります。そして次にメザニン・トランシェの2/3(=10%/15%)が毀損することになります。
トランシェには、そのリスクに応じて格付け会社から格付けが付与されます。格付け会社とは、あらゆる証券のリスクを客観的に判断し公表する企業のことで、ムーディーズ(Moody's)、S&P(Standard and Poors)、フィッチ(Fitch)の3社が大手として君臨しています。
リスクの低いシニア・トランシェにはAAAといった最高格付けが与えられます。また高リスクのエクイティ・トランシェにはCCCのような低格付けか、あるいはそもそも格付け自体が付与されません。
ここまで聞くと、シニア・トランシェの方がいいように聞こえますが、当然リスクが低ければ得られるリターンも低くなるわけで、得られる利回りはエクイティが高くなります。例えば、エクイティ・トランシェのリターンはLIBOR*1+15%、シニア・トランシェのリターンはLIBOR+0.5%のように設定されます。
かなり簡素化して説明しましたが、これがMBSです。銀行やヘッジファンドなどの投資家は、こうして分割された各トランシェを売買することができます。
ABS(Asset Backed Securities)
今説明したMBSですが、これはABS(Asset Backed Securities)の一種です。
今はモーゲージがキャッシュフローの源泉となるMBSの説明でしたが、要は定期的にキャッシュを生み出すものであればなんでも証券化できるわけです。
資産をあつめてひとつのパッケージにまとめて(プールして)、そこから得られるキャッシュに対する優先順位およびリターンでグループ分け(トランチング)するという手続きをふんで組成された証券を総称してABSと言います。
モーゲージ以外にも、自動車ローン、学生ローン、あるいは航空機リースなどから発生するキャッシュを裏付けとしたABSもあります。
CDO(Collateral Debt Obligation)
さて、こうして組成したMBSですが、シニア・トランシェは比較的簡単に売れました。AAA格付のわりにそこそこリターンが良かったからです。また、エクイティ・トランシェもリスクをとるのが大好きなヘッジファンドなどが買ってくれますが、中途半端なメザニン・トランシェはあまり人気がありませんでした。
そこで銀行が何をしたかと言うと、MBSだけに限らず、自動車ローンや学生ローンなど、いろいろなABSのメザニン・トランシェを集めてひとまとめにし、そこから生まれるキャッシュを再びトランチングして売るということをやります。もちろん、MBSだけのメザニン・トランシェを集めることもできます。
つまり、ABSのABSとでも言いましょうか。これをCDO(Collateralized Debt Obligation)と言います。アルファベット3文字がいっぱい出てきてうっとうしいですね(笑)。正確には、CDOとは債券やローンなどをキャッシュの源泉として証券化されたもの全般を指して言います。今回は、いろいろなABSのメザニン・トランシェをごちゃまぜにしたプールから生まれたものですから、特にABS CDO、あるいはメザニンABS CDOなどと言います。
正直言い方はどうでもいいので(笑)、こんなことをやっていたんだというのを理解してください。
で、こうしてできたCDOを再度トランチングして、優先順位の高いシニア・トランシェを組成するのですが、この際に、またAAAという高格付けを格付け会社から付与してもらったのです。
「ちょっと待てよ」と思うかもしれません。そもそも最初に見たABSでAAAと格付けされていたのは80%を占めるシニア・トランシェだけでした。メザニン・トランシェの格付けはBBB程度です。ところが、似たような格付けのメザニン・トランシェをひとまとめにして、CDOのトランチングを行う際に、BBBの格付けからAAAのシニア・トランシェを生み出したわけです。こうすると売れるからです。ほとんど詐欺ですね。
ところが、これだけにとどまりません。こうして生まれたいろいろなCDOから、格付けの低いトランシェを再びかき集めてごちゃまぜにし、再度トランチングしてシニア・トランシェを生み出すといったことをやります。こうしてできたのが(CDO squared)です。で、のトランシェをかき集めて証券化すれば、(CDO cubed)の誕生です。(以下無限に続く...という感じでしょうか。)
冗談のようですが、実際にこれをやっていたのです。そしてこれを繰り返していくうちに、どんどんAAA格付けがねつ造されていきます。しまいには、とんでもないリスクを内包した証券にAAA格付けが付与されていたわけです。ドーピングと同じですね。
格付け会社は、CDOのリスクを正確に把握することはできず、またCDOを組成した投資銀行から、格付けを依頼される際に金銭を受け取っていました。彼らは、自身の付与した格付けが誤っていたとしても、法的責任を追うわけではありません。なぜなら、格付けはあくまでも彼らの「意見」に過ぎず、それをもとに投資判断を下してもそれは投資家自身の責任だからです。
それをいいことに、投資銀行となかばグルになって高格付けを付与し続けたのです。本来、第三者的立場からリスクを判断して格付けしないといけないにも関わらず、商品を組成した投資銀行とズブズブの関係にあったわけです。
今回はややこしいアルファベットがいっぱい出てきましたが、次回はこれらを背景にしてサブプライム危機が顕在化するまでの流れを見ていきたいと思います。