佐藤茂のときどき真面目な金融日記

とある外資系トレーダーが綴る、金融中心かと思いきや雑多なブログ

サブプライムローン問題とはいったいなんだったのか(2)多分日本一わかりやすい解説

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さて、前回はいろいろな3文字アルファベットが出てきました(笑)。

ちょっと復習しましょう。

定期的にキャッシュを生み出すものをかき集めて、そこから生まれるキャッシュを得る。その権利がABSでした。ABSの中でも特に、モーゲージからのキャッシュを裏付けとして作られた証券がMBSです。

証券化する際に、リスクに応じてトランシェに分割して、そのトランシェ毎に格付け会社から格付けを付与されます。銀行は、売れる商品を作るために、ABSのメザニン・トランシェをかき集めて再びABSを作り出し、そのシニア・トランシェにAAA格付けを付与してもらうということをしており、言ってみれば格付けのドーピングが横行している状況でした。

今回は、そのような状況にあった当時の背景について説明します。

 

 

当時の米国不動産市況

当時、米国は不動産価格の上昇真っただ中にありました。金利の低い時期が続いたので、今が買い時と多くの人が思ったことも理由のひとつです。が、最大の理由は2000年代前半にサブプライム・モーゲージが大量に発行されたことです。

 

サブプライムローン(Subprime Loan)

サブプライム(Subprime)とは、プライム以下という意味です。プライムローンというのは、信用度の高い人に対して組まれる低金利のローンを意味し、サブプライムローンとは、低所得や過去のクレジット履歴がよろしくない人向けのローンという意味です。

アメリカでは、銀行やクレジットカード会社が、各個人の所得やクレジット履歴をもとに、その人の返済能力がどの程度信用できるか点数をつけています。

その点数のつけ方のひとつにFICOスコアというものがあります。FICOスコアは発案したFair Isaac and Companyからつけられたもので、300-850点の幅をとります。スコアが高いほど返済能力の信用度が高いことを表し、明確な定義はないのですが、サブプライムローンはおよそ650程度以下のFICOスコアの人に組まれたものを言います。

日本では単に「サブプライムローン」と言われますが、2008年の金融危機の発端となったのは信用スコアの低い低所得者向けに貸し出された住宅ローンで、正確に言うと「サブプライム・モーゲージ」のことです。

なぜサブプライム・モーゲージは大量に発行されたのか

1990年以降、アメリカ政府は、多くの国民が家を持てるように、ローンの貸し手である銀行に低所得者向けのモーゲージの発行を増やすようにプレッシャーをかけていました。

そういった銀行にとって、「証券化」の手法は願ったりかなったりでした。もともと、住民にモーゲージを貸し出す地方の銀行は、自分たちの預金を元手にローンを発行していました。

ローンを低所得者に貸し出す場合、当然不履行のリスクがあります。もしも不履行となった場合、ローン発行体である自分たちが損失を被ります。また、ローンの返済は長期間にわたりますから、自分たちでしっかりリスクを判断して、監視していたわけです。

 

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ところが、「証券化」の仕組みの中では、彼らは発行したモーゲージを投資銀行に売りってしまえば、あとは知らんぷりです。投資銀行がCDOを投資家に売りさばける限り、モーゲージに対する需要は高まりますから、モーゲージ発行体はモラルなくどんどん低所得者にローンを発行していきました。言ってみれば下のような感じです。

 

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ローンの返済はもはや、ローンを発行した地方銀行ではなく、投資家に対して行われることになります。

格付け会社は、投資銀行からお金をもらってバシバシCDOに高格付けを与えていきます。高格付けの商品にしか投資できないような年金基金などの投資家も、格付けを信じてどんどんCDOを買っていったわけです。

また、サブプライム・モーゲージが発行されるということは住宅購入者が増えるわけですから、どんどん不動産価格を押し上げていきます。

MBSはその不動産を担保にして発行されますから、担保価値が上がれば商品はますます売れるので、サブプライム・モーゲージの発行がますます増えるという流れになります。こうして不動産価格はバブルの様相を呈していきました。

 

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モラルの崩壊

いつかはこの枠組みが崩壊すると多くの関係者は気づいていましたが、こうした状況の中で、モラルはどんどん崩壊していきます。本来、モーゲージの発行や投資家への商品の販売は、リスクを適切に判断・公示したうえでなされなければなりません。

しかし、上でみた「証券化」の枠組みの中では誰もそんなことは気にしなくなっていました。とにかく大量にローンを発行し、ゴミ屑を投資家に売りさばいて手数料を稼げばよい。そんな雰囲気だったのです。

 

モーゲージ発行体のモラル崩壊

低所得者にモーゲージを貸し出す企業は、自分たちでそのローンを回収する必要はなく、後で投資銀行がローンを買い取ってくれるわけですから、誰かれ構わずひたすらモーゲージを発行していきます。

もはや、借り手の経済状況がどうかなどというチェックはなされなくなっていきました。当時のモーゲージの貸し出しの状況を称する言葉として、「Liar Loan」(うそつきローン)というのがあります。貸し手はチェックする気などサラサラなく貸す気満々ですから、借り手に嘘をつかせて申し込み書類を埋めさせていたのです。

また「NINJAローン」という言葉もしばしば使われます。No Income、No Job、No Assetをとって、NINJAというわけですが、要するにこういった人たちにも規律なくもゲージを発行していたわけです。

 

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格付会社のモラル崩壊

上で説明した通り、Moody’s 、Standard & Poors、Fitchといった大手格付会社は、CDOに格付を付与することで投資銀行からお金を受け取っていました。低い格付をつければ、投資銀行から仕事がこなくなってしまいます。顧客である投資銀行が喜んでくれるように、彼らは次から次へとゴミ屑同然のCDOにAAAという高格付を増やして行きます。

彼らの格付はあくまでも彼らの「意見」であって、それを元になされた投資の責任を彼らが負うことはありません。議会の公聴会に呼び出された時にも、彼らはこの主張を繰り返して言い逃れをします。

投資銀行のモラル崩壊

投資銀行は、ゴミ屑同然のCDOをバンバン機関投資家に売りさばいて行きます。

下の動画は、当時のゴールドマンのモーゲージ部門のヘッドが公聴会に呼ばれて尋問を受けているものです。「Timberwolf」と名付けられたCDOを組成し、ゴミ屑だと認識しながら投資家に販売していたことを尋問されています。

 


"How much of that shitty deal did you sell to your clients?" Goldman Sachs Hearing

 

 

さて、次回はいよいよ当シリーズの最終回です。いかにしてバブルが弾け、その後の大惨事に至ったのかを見ていきましょう。

 

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