佐藤茂のときどき真面目な金融日記

とある外資系トレーダーが綴る、金融中心かと思いきや雑多なブログ

住宅ローン。日本では変動型が過去最高に。香港でも固定型が減少。そのまったく異なる理由とは。

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こんにちわ。佐藤です。

昨日、日経でこんな記事が出ていました。日本では、住宅ローンの返済金利を変動型で借りる人が過去最高に達したという内容です。

 

www.nikkei.com

 

『住宅ローンを変動型金利で借りる人が急速に増えている。2017年度下期に借り入れをした人の56.5%を占め、前年同期に比べて9ポイント増え、過去最高になった。超低金利が長期化するという観測に加え、マイナス金利政策の導入後に銀行間で過熱した固定型での金利競争が一服した面もある。』とのこと。

実は香港で似たような現象、つまり変動型金利が足元増えているという状況が起こっています。しかし、理由はまったく違います。むしろ真逆と言ってもよいでしょう。

香港では、大手銀行が固定金利型の住宅ローンを意図的に停止しており、変動金利型でしかローンを組めないようになっているのです。日本では好んで変動金利型ローンを選択しているのに対し、香港では固定金利型ローンを組みたいのに、変動金利型ローンしか選択肢がないという真逆の状況です。

 

 

www.bloomberg.com

 

香港で住宅ローンを提供している主要銀行のうち、

・Bank of East Asia

・Industorial & Commercial Bank of China

・HSBC

・BOC Hong Kong

はすでに固定金利型住宅ローンを停止しています。

理由は、香港では今後金利の上昇が見込まれており、固定金利型ローンが銀行にとって負担になるからです。背景には香港ドルのペッグ(Peg)制度と米金利の上昇があります。

ペッグ制とは、自国の通貨と特定の通貨の為替レートが一定に保たれるようにする制度で、HKMA(Hong Kong Monetary Authority:香港の中央銀行に相当)は1米ドル=7.75~7.85香港ドルとなるように調整しています。香港は経済規模が小さく、変動相場にすると通貨が不安定になるため、このような制度をとっています。

今アメリカは金融危機以降続けていた緩和政策を終わらせ、利上げ局面の真っただ中にあります。為替レートがペッグされているのであれば、香港ドルを売ってたくさん金利をもらえる米ドルを買おうとします。いわゆるキャリー・トレードです。そのおかげで、直近1年、USD/HKD為替レートは、レンジ下限の7.75からレンジ上限の7.85まで一気に上昇しました。

 

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こうなってくると、レートがレンジ内に収まるように、HKMAが為替介入します。つまり、マーケットから香港ドルを買い上げるわけです。すると、市場に流通している香港ドルの量が減少、価値が希少になりますから、市場で香港ドルを借りる際につく金利が上昇します。つまり、結果的に米金利の上昇に追随することとなります。

以下は3か月ものの米ドルLIBORとHIBORの推移です。HIBORは、LIBORの香港バージョンで、香港の主要銀行間で香港ドルを貸し借りする際につく金利のことです*1

 

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ここ数か月で、HIBORが米金利に追随するように急上昇しているのが分かります。4か月前は1%少々だったのが、いまや2%超えです。

米ドルに対するペッグ制をとっている限り、香港の金利は米ドル金利に追従せざるをえません。FEDが利上げを見込んでいる限り、香港の金利も上昇すると見込まれます。したがって、銀行からすれば固定金利ではなくて変動金利で住宅ローンを組ませたいわけです。

香港はもともと変動金利型住宅ローンがスタンダードだったのですが、今年の2月時点で新規住宅ローンにおける固定金利型の割合は28%にまで増えていたそうです。1年前にはわずか1.9%でした。

ところが今回、金利の急上昇および将来の見込みをうけて主要銀行が固定金利型住宅ローンを停止したわけです。

ちなみに香港の平均的な家計では、月収の実に60%!が住宅ローンの返済に充てられているそうです。今後金利が上がり、この割合が70%にまで上昇するとか。おそろしいですね...

 

*1:LIBORについてはこちらを参照。

www.shigeru-sato.com