スワップの基礎(1)金利スワップ
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このシリーズでは、スワップを解説していきたいと思います。一口にスワップと言っても、金利スワップや通貨スワップ、為替スワップなど、多種多様です。全種別をひとつひとつ見ていくことはしませんが、主要なスワップの基礎を解説していきたいと思います。
このシリーズは、『デリバティブの基礎の基礎』および『債券の基礎』の知識を前提にしていますので、まだ読んでいないという方はまずそちらを一読されることをお勧めします。
目次
金利スワップ
スワップの基礎シリーズ第1回目の今回は、金利スワップ(Interest Rate Swap)です。略してIRSと言います。これは今後に出てくる金利関連プロダクトの一番のおおもとになるものですから、しっかり理解しましょう。
金利スワップとは、簡単に言うと「同じ通貨の固定金利と変動金利を交換する契約」のことです。この際の変動金利として使われるのが『デリバティブの基礎の基礎』に出てきたLIBORです。つまり、「固定金利とLIBORを交換する契約」です。
今A社とB銀行との間で、「想定元本100億円、期間3年、半年毎支払い、固定年率3%」のスワップを締結したとしましょう。A社がB銀行に3%の固定利率を支払い、代わりに日本円の6か月LIBOR(¥6mL)を受け取るとします。固定金利は実線矢印、変動金利は点線矢印で表しています。
この際、固定金利の支払い側であるA社は、スワップを「ペイ(pay)する」と言います。また、固定金利の受け取り側であるB銀行は、スワップを「レシーブ(receive)している」と言います。
実際の各矢印の値を見ていきましょう。
現在の時点で、半年ごとに支払う固定金利はすでに決まっています。
億円
です。変動金利分は、支払いの半年前の6か月LIBORで決まります。スワップを結んだ時点での6か月LIBORが仮に2%だったとすると、6か月後の第1回目の変動金利分は
億円
となります。第1回目の支払い額だけは現時点で決まっていますが、第2回目の変動金利分は半年後、第3回目の変動金利分は1年後にしか分かりません。
今仮に、6ヶ月後以降の6ヶ月LIBORが以下のような値だったとします。するとこのスワップのキャッシュのやり取りは以下の表のようになります。
この通りに進めば、A社はこのスワップから損が出ることになります。誰も、損失が出ると分かっている契約を結ぶはずないですから、スワップは契約時点では双方にとって価値がゼロでなければなりません。つまり、締結時点で予測される変動支払い分の価値と、固定支払いの価値が等しくならなければなりません。
(締結時の固定払い分の価値)=(締結時の変動払いの分の価値)
が成り立つように、固定年率が決められるのです。この利率をスワップレートと言います。スワップレートについては、次回詳しく見ていきましょう。
金利スワップの目的
金利スワップ締結の目的としてはよく以下の2つが挙げられます。
金利リスクのヘッジ
例えば、ある企業Cが銀行からローンで資金を調達したとします。バンクローンは、クレジット格付があまり高くない企業がお金を借りる手段としてしばしば使われます。bondと比較して比較的短期で、返済がLIBOR+という変動金利で行われるのが特徴です。LIBORに上乗せする分のは、借り手の信用リスクによって変わってきます。当然、信用リスクが低い企業ほど、多くの金利を上乗せしないとローンが組めないことになります。
ローンを組んだ借り手企業は、将来の金利が上昇すると返済額が増えるというリスクにさらされることになります。そこで、現時点でスワップを締結することで、変動金利を固定金利に変換し、将来の金利変動リスクを除くことができます。
将来の金利の動きに対するベット
もしも、将来の金利の動きに対する知見があり、そこから収益を上げたければ、スワップを締結することで実現できます。
例えば、金利が将来金利が上昇すると思えば、スワップをペイすれば利益を上げられます。将来5年間にわたって3%の固定金利を支払う約束をした後に、金利がどんどん上がれば、上昇した変動金利分の利息を将来受け取れる代わりに、支払いは常に3%でいいからです。
反対に、金利が下がると思えば、スワップをレシーブすることで利益を実現できるでしょう。
次回は、金利スワップの想定元本表示について説明します。