デリバティブの基礎の基礎(4)プレゼントバリュー(現在価値)とディスカウントレート(割引率)
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前回は無リスク金利とは何かについて解説しました。
今回はいよいよ『デリバティブの基礎の基礎』の骨幹、「プレゼントバリューとディスカウントレート」について見ていきましょう。
無リスク資産の現在価値
前回、「裁定機会が存在しないと仮定すると、ありとあらゆる無リスク資産は無リスク金利を実現する」ことを確認しました。
したがって、「連続複利表示された」無リスク金利が10%だとすると、無リスク資産を連続複利で運用した場合、『デリバティブの基礎(1)フォワードと裁定取引』で見たように、100万円を10年後に271.83万円にすることができます。逆に言えば、無リスク金利が10%の世界では、「10 年後の271.83万円の価値が現在の100万円の価値に等しい」ことになります。
それでは、10 年後の100 万円の現在価値(プレゼントバリュー)はいくらでしょうか。再び連続複利の計算式を思い出してください。元本Aを、年率RでT年間連続複利運用すると
となるのでした。したがって、
となるAを求めればよいわけですから、
つまり、「10 年後の100 万円が現在の36.79 万円に等しい」ことになります。今おこなったことをファイナンスの言葉で表現するならば、「10年後の100万円のプレゼントバリュー(現在価値) を無リスク金利でディスカウント(割引)して求めた」ことになります。そして、このとき
をディスカウントファクターと言います。要は、10年後の100万円を現在価値に直すさいにかける値のことです。一般に、
が連続複利の場合のディスカウントファクターです。この、「将来の資産価値をディスカウントしてその現在価値を求める」という考え方はとても重要です。そしてその際に用いる割引率のことをディスカウントレートと言います。無リスク資産の現在価値を求める際に用いるディスカウントレートが無リスク金利なのです。
無リスクでない場合
さて、それでは無リスクではない資産の現在価値を求める際には、どの程度のディスカウントレートを用いればよいでしょうか。これは非常に難しい問題です。例えば友人のA君が、10 年後に100 万円にして返すから、今お金を貸して欲しいと頼んできたとします。いったい今いくらお金を貸してあげるべきでしょうか。
この「10年後にA君から100万円を受け取る権利」が無リスク資産だとすれば、無リスク金利が10%の世界では現在価値は36.79 万円ですから、36.79万円貸してあげれば良いでしょう。しかしながらこの資産は無リスクではありません。10年以内にA君が破産してお金を払えなくなってしまうかも知れませんし、どこかへ行ってしまうかも知れません。
したがってこの資産の現在価値を求めるためには、無リスク金利よりも大きなディスカウントレートを用いる必要があります。例えば、15%のディスカウントレートを用いたならば
ですから、22.31万円ならばA君に貸してあげても良いと思うでしょう。また、別の友人B君が同じ頼みごとをしてきたとします。しかし、B君はA君よりも信用できず、「10年後にB 君から100 万円を受け取る権利」はよりリスクの高い資産だと考えれば、より高いレートでディスカウントする必要があります。
このように、金融資産の現在価値を求めるには、その資産のリスクを正しく評価し、適切なディスカウントレートを用いる必要があります。資産のリスクが高いほど、高いディスカウントレートを用い、得られるリターンも高くなければなりません。投資家が、高リスクの資産に対して無リスク金利に追加して求める期待リターンをリスクプレミアムと言います。
リスクという究極の難問
さて、ここまで計4回にわたってデリバティブの基礎の基礎を見てきました。それはありとあらゆるプロダクトの公正価格を計算する際の哲学とも言うべき考えで、「将来価値を現在価値にディスカウントする」というものです。
そしてその際に必要となるのが、「リスクを適切に見積もる」という作業でした。
- 高リスク 高ディスカウントレート
- 低リスク 低ディスカウントレート
を使って、現在価値に直す必要があります。一言で「リスクを適切に見積もる」と言いましたが、実はこれは簡単ではありません。それどころか、デリバティブのプライシングに限らず、ファイナンスにおける究極の問題と言ってもよいでしょう。
ありとあらゆる金融プロダクトは、リスクを適切に見積もることで価格(=現在価値)が計算できます。もしもあなたが正しくリスクを見積もることができれば、その正しい価格より市場価格が高ければ売り、低ければ買うということをすべてのプロダクトに対して常時行えば大金持ちになれるでしょう。
年N回の複利運用の場合
さて、今までは連続複利でディスカウントしてきましたが、「半年複利」でディスカウントする場合はどうでしょうか。要は、日々自由にキャッシュのやり取りをできるわけではなく、再投資の頻度が6か月おきにしか許されていない場合です。債券ではよく出くわすシチュエーションです。
とくに難しくありません。すでに見たように、元本Aを、年率Rで、年間N回再投資すると、T年後には
になっています。つまり、T年後のは現在のAに等しいわけです。したがって、T年後のXの現在価値は、分子と分母を逆にすればよいだけで、
となります。つまり、
が、年N回しか再投資できない場合のディスカウントファクターです。「半年複利」の場合はN=2ですから、
ですし、「3か月複利」の場合はN=4とすればよいので
となります。債券ではしばしば登場する式なので覚えておきましょう。
それでは次回は、世の中に存在するいろいろな金利について見ていきましょう。