佐藤茂のときどき真面目な金融日記

とある外資系トレーダーが綴る、金融中心かと思いきや雑多なブログ

スワップの基礎(3)OIS(Overnight Index Swap)とテナー・ベーシス・スワップ(Tenor Basis Swap)

スポンサーリンク

スワップの基礎シリーズ第3弾です。

第1回は金利スワップの基礎について、そして第2回は金利スワップの想定元本表示について解説しました。

この回では、OISとテナー・ベーシス・スワップについて説明します。

 

OISとは

OISとはOvernight Indexed Swapの略で、「オーアイエス」と呼びます。金利スワップの仲間で、変動金利と固定金利を定期的に交換するという部分では同じです。ただし、変動金利の指標として3ヶ月物や6ヶ月物のLIBORではなく、翌日物金利(日本の場合は無担保コール翌日物)を日次で複利運用した場合に得られる金利を使います。
 例えば、想定元本100億、満期1年、交換頻度3か月のOISが3%で取引されているとします。ちょっとややこしいですが、それは100億円に対して、固定金利3%分の金利と、翌日物金利を過去3か月毎日複利運用して得られた分の金利を交換するということを意味します。それを満期まで3か月ごとに繰り返します。この時の固定金利をOISレートといます。今の例では、3%がOISレートとなります。

f:id:shigeru_sato:20180617135516p:plain



例えば、契約開始初日の無担保コール翌日物レートを O_1、次の日を O_2...として、最初の3か月の営業日が63日あったします。すると変動金利の支払い分は、

 100億円 \times \left(  \left(  1+ \frac{O_1}{365} \right) \left( 1+ \frac{O_2}{365}\right) \cdot \cdot \left( 1+ \frac{O_{63}}{365} \right)-1 \right)

となります。土日は除いて、その場合金曜日の翌日物レートに \times \frac{3}{365}をして複利運用していきます。固定金利の受け取り分は、

 100億円 \times 3.0\% \times 0.25 = 0.75 億円

になります。こういった交換を満期まで続けるのがOISです。

 

テナー・ベーシス・スワップ

OISについての説明を進める前に、テナー・ベーシス・スワップ(Tenor Basis Swap)について解説したいと思います。テナー・ベーシス・スワップも金利スワップの一種ですが、通常の金利スワップのように変動金利と固定金利を交換するのではなく、「異なる頻度の変動金利を交換する契約」です。

例えば下の図は、満期2年の、3か月LIBORと6か月LIBORを交換するテナー・ベーシス・スワップのキャッシュフローです。A社は、3か月おきに3か月LIBORを支払う代わりに6か月おきに6か月LIBORを受け取ります。変数が多くてややこしいですが、これを「2 years、3s6s」と言ったりします。

 

f:id:shigeru_sato:20180617142841p:plain

 

 

以前フォワードレートの話をしたときに、最初の3か月に現在の3か月LIBORで運用し、残りの3か月を現在のフォワードLIBOR  F_{3 \times 6}で運用したら、それは現在の6か月LIBORで半年間運用した場合と等しいはずだと言いました。実は現実にはこれは正しくありません。これは、信用リスクがゼロの場合には正しいのですが、ほとんどの場合、


 (1+3mL/4)(1+F_{3 \times 6}/4) \leq (1+6mL/2)


となって、後者の値が大きくなります。長期間であればあるほどデフォルトする可能性が高まるために、その分だけ金利を上乗せしてもらわないと割りに合わないのです。実際のLIBORの値はそのように、長期になるほど信用リスクの分だけ高くなっています。

したがって、上の式が等しくなるためには、期間の短い方に、ある程度のスプレッド \alphaをくっ付けて、

 

 (1+(3mL+\alpha)/4)(1+(F_{3 \times 6}+\alpha)/4) = (1+6mL/2)

 

として始めて等式が成立します。

ここから先は煩雑な式を省いて言葉で説明しますが、テナー・ベーシスの場合も同様で、期間の短い方にある程度のスプレッド \alphaを付けて取引します。そうすることで始めて

(受け取り分の現在価値)=(支払い分の現在価値)

という、スワップ締結の条件が満たされます。つまり実際のテナーベーシスのキャッシュフローは下の図のようになります。

 

f:id:shigeru_sato:20180617213822p:plain

 

そしてこの年率換算した \alphaのことを「テナー・ベーシス・スプレッド」と言います。あるいは単にこれを指して「テナー・ベーシス」と言ったりもします。今の場合は、「2years 3s6s tenor basis」ですね。

LIBOR-OISスプレッド

さて、テナーベーシスを見た上で、改めてOISを見てみましょう。先ほどの3か月おきのOISで見れば、


 100億円 \times \left(  \left(  1+ \frac{O_1}{365} \right) \left( 1+ \frac{O_2}{365}\right) \cdot \cdot \left( 1+ \frac{O_{63}}{365} \right)-1 \right)


という変動する額と現在価値が等しくなるように設定される固定金利のことでした。ここにはスプレッドは乗っていません。したがって、同期間のLIBORよりもOISレートは低くなります。つまり、


 \rm{LIBOR} - OIS \geq 0


です。この、LIBOR-OISスプレッドは、銀行の信用リスクのバロメターとしてあらゆる市場参加者が見ています。OISは期間1日の貸し借りで、信用リスクはほとんどないと見なされていますが、信用リスクが高まってくると、このLIBOR-OISスプレッドは大きくなります。実際に2008年の金融危機の時にはこのスプレッドが急上昇しました。

2008年以前は、無リスク金利としてLIBORおよびスワップゼロレートがそのまま無リスク金利として使われていたのですが、銀行間の信用リスクが強く意識されて以降は、LIBORよりもOISレートのほうが無リスク金利として適していると考えられています。

 

次回は、通貨スワップとベーシススワップ、そして為替ヘッジのコストが金利差とベーシスによって決まるということを見ていきます。

www.shigeru-sato.com