佐藤茂のときどき真面目な金融日記

とある外資系トレーダーが綴る、金融中心かと思いきや雑多なブログ

デリバティブの基礎の基礎(2)単利と複利

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前回は、フォワードについて学習しました。そして、「裁定機会が存在しない」と仮定することでフォワードの公正価格を求めることができました。目標は「将来のキャッシュフローを現在価値にディスカウントする」という考えを習得することですが、そのために今回は「金利」というものを今一度考察してみましょう。

実はこの金利、2つの表し方があります。「単利表示」と「複利表示」です。

 

 

単利

通常「年利が10%である」と言った場合、それは1 年後に元本が10%増えることを意味します。この場合の金利は、「単利表示」されています。たとえば、年利が10%であれば、100万円の元本は1年後に

 100 \times (1+0.1)=110 万円

になり、10年後には

 100 \times (1+0.1\times10)=200 万円

になります。一般に、年間の単利をRとすれば、期間中に再投資を行わなかった場合、元本AT 年後に

 A \times (1+RT)

になります。これが「単利」です。要は、利息が最初の元本分にしかつきません。

複利

1年複利

それでは、年に1 回増えたお金を再投資にまわして運用したらどうなるでしょう。年利が10%であれば、100万円の元本は1年後に110万円になります。増えたお金を全額再投資すれば、そのまた1 年後には

\displaystyle 110 \times (1+0.1)=121 万円

になります。このように全額再投資することを10年続ければ、10年後には

 110 \times (1+0.1)^{10}=259.37 万円

になるでしょう。再投資を行わない場合は200万でしたが、増えたお金を再投資にまわすことで、当然リターンが大きくなります。年間の単利をRとすれば、1 年後に元本A A(1+R) となり、全額再投資にまわすことをT 年続ければ、T 年後には

 A \times (1+R)^T

となるわけです。これが「複利」です。今は1年に1回再投資をしたので、「1年複利」です。

半年複利

次に、年の途中でも再投資することができるとしましょう。例えば、年1回ではなく、半年ごとに年に2 回の複利投資ができるとします。先ほどの例で言えば、100万円の元本は半年後に

\displaystyle 100 \times (1+0.1/2)=105 万円

になりますから、これを全額再投資すれば、そのまた半年後(すなわち1年後)には

\displaystyle 105 \times (1+0.1/2)=110.25 万円

になります。これを10年続ければ、

\displaystyle 100 \times (1+0.1/2)^{20}=265.33 万円

になるわけです。再投資の頻度が増えたことで、年1回しか再投資できない場合よりもリターンが大きくなっているのが分かります。今の場合、半年に1回再投資したので、「半年複利」あるいは「6か月複利」と言えます。

連続複利

より一般に、単利Rの投資を年間N回再投資すれば、元本AT年後に

 A  (1+\frac{R}{N})^{NT}

となります。例えば、N=4の場合は「3か月複利」、N=12の場合は「1か月複利」です。先ほど見たように、再投資頻度Nを大きくすればするほどこの値は増えていきます。ここで、Nを無限大、すなわち常に連続的に再投資するとすれば、この値は

 A  (1+\frac{R}{N})^{NT} \rightarrow A e^{RT} \hspace{1cm}(N\rightarrow \infty)

となります。これを「連続複利」といいます。\displaystyle eは高校数学で出てきた自然対数の底です。日々の再投資、すなわちN=365の「1日複利」の場合は、連続複利式

 A e^{RT}

を用いて非常によい近似で簡単に計算することができます。先ほどの例を用いれば、年利10%で毎日再投資を行えば、10年後には元本はおよそ

 100 \times e^{0.1 \times 10}=271.83 万円

となることが分かります。デリバティブ理論は一般に「連続複利」で金利を考えます。そうすることで数式を解析的に解くことが可能となるのです。特に、株の世界では日々いつでもキャッシュのやり取りができるために、連続複利で考えることが標準です。

債券の場合、クーポン(利息)の支払いが3か月おき、あるいは6か月おきの場合が多いために、「3か月複利」や「6か月複利」もよく登場します。

「単利表示」vs「連続複利表示」 

今見たように、年利が同じでも再投資をしない場合と、頻繁に再投資をする場合とではリターンが大きく異なることが分かりました。

再投資をしない場合は、T 年後に元本A

 A(1+RT)

となるのに対して、連続複利で運用すれば

 Ae^{RT}

となり、大きなリターンが得られます。逆に言えば、「実現されたあるリターンを表現するとき、単利表示の方が連続複利表示より大きくなる」ことになります。

たとえば、現在100ドルで取引されている株が2年後に120ドルになったとしましょう。このリターンはどのように表現されうるでしょうか。「単利表示」では、A=100 、T=2をA(1+RT)を に当てはめて

 100 \times (1+2R)=120

から、R=0.1と求まります。つまり、年間10%のリターンとなります。しかしながら「連続複利表示」では、 Ae^{rT}を用いて

 100 \times e^{2r}=120

 e^{2r}=1.2

 2r=\ln (1.2)

 r=\frac{\ln (1.2)}{2}=0.091

ですから、年間r=9.1%程度にしかなりません。これは当然のことです。実現したリターンを単利表示すれば、連続複利表示よりも必ず大きくなるわけですから。

今見たように、連続複利表示のリターンは、終値(今の場合120)と始値(今の場合100)の比をとって対数をとるだけなので、「対数リターン(Log Return)」と言ったりもします。反対に、対数リターンと言えば、それは連続複利表示のリターンのことです。

下の図は、リターンの単利表示と連続複利表示を表したものです。横軸は、単利表示した際のリターンです。これを見ると、例えば単利表示の-30%は連続複利表示では-35%程度、単利表示の+30%は連続複利表示では+25%程度に相当することが分かります。図のように、あるリターンを表現するとき、単利表示は必ず連続複利表示を上回ります。 

 

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先ほどの例で言えば、「100ドルが2年後に120ドルになった」という事実はひとつですが、それをどのように表現するかによって見かけのリターンは異なるのです。

例えばもし、「過去2年の収益は年平均でプラス2%です。」と言った商品があったとします。もしもそれが「1年ごとに計算した単利表示リターンの平均」という意味だったら、1 年目に-20%、2 年目に+24%のリターンを実現した場合、確かに平均は+2%ですが、実際に100万円分買っていたら、1年目の終わりには

 100 \times (1-0.2)=80

となり、2年目の終わりには

 80 \times (1+0.24)=99.2

ですから、実は100万円は2年後には99.2万円となり、実際にはお金を失っていることになっているのです。

 

今回は以上です。次回は、無リスク金利について解説します。

 

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