佐藤茂のときどき真面目な金融日記

とある外資系トレーダーが綴る、金融中心かと思いきや雑多なブログ

ヘッジファンドの戦略(1)イベントドリブン。リスクアービトラージとは。

今後、『ヘッジファンドの戦略』シリーズと称して、気が向いたときにどうやってヘッジファンドがお金を稼いでいるのかを紹介していきたいと思います。

第1回目はイベントドリブン(Event Driven)です。

普通、ヘッジファンドの戦略を紹介する時に、初っ端にイベントドリブンが出てくることはあまりないのですが(笑)、ちょうどFinancial Timesに、QualcommによるNXPの買収案件の記事が出ていたので、それを例にして説明したいと思います。

 

 

イベントドリブンとは

イベントドリブンとは、通常ではないなんらかのイベントに乗じてお金を稼ぐ戦略の総称です。例えば、M&Aや、企業のスピンオフ、再編などです。あるいは経営が悪化して売られすぎた時に、安すぎると判断して投資するディストレスト投資もイベントドリブンの1種です。

今回はM&Aに絡んで一儲けするリスクアービトラージ(Risk Arbitrage)という戦略を説明します。個人的にはこのネーミングはかなりイケてないと思っていますが、まあそう呼ばれているので仕方ありません。

マージャーアービトラージ(Merger Arbitrage)とも言いますが、こっちの方がまともです。

今、イベントドリブン業界でもっともポピュラーなトレードのひとつが、米通信大手Qualcomm社によるオランダ半導体メーカーNXP社の買収案件です。

 

M&Aの過程

通常、A社がB社を買収しようとするとき、A社がB社株を1株いくらで買いますと提案します。その提案価格は、現在のB社株より高くないといけません。そうじゃないと、B社の株主にとってはなんのメリットもありません。

例えば、現在のB社株が80ドルで、買収の提案価格が100ドルだったとします。すると、買収提案のニュースが出るとB社株は一気に上がりますが、100ドルまで上がることはありません。なぜなら、交渉途中で買収が破断になるかもしれないからです。

80ドルのB社株が、100ドルでの買収の話が出たときに90ドルになったとすると、それは市場が、50%の確率で失敗するとみているわけです。本来、成功すれば100ドルなので、20ドル上昇すべきところが、10ドルしか上昇しなかったわけですから、市場は文字通り半信半疑に思っているということでしょう。

反対に、一気に95ドルまで上がったとします。つまり15ドルの上昇です。それはつまり、市場が75%(15/20=75%)の確率でM&Aが成功すると思っているということです。

 

ヘッジファンドの儲け方

こうしたM&Aの過程で、ヘッジファンドはお金を儲けようと参加してきます。例えば先ほどの例でいえば、市場が50%しか成功しないとみているときに、絶対に成功すると思えば、90ドルでB社株を買えばいいわけです。最終的にM&Aが成功して100ドルで決着がつけば、10ドル利ザヤを稼げることになります。反対に、M&Aが失敗に終われば、負けることになりますが。

中には、非常にアグレッシブに、B社の株を大量保有して大株主として買収する側と交渉するヘッジファンドもいます。「この提案価格じゃ低すぎるからもっと上げろ。そしったらB社株を売ってもいいぞ」という具合です。

この過程の中で、実際に買収価格が何度も引き上げられることはよくあります。買収提案価格が引き上げられれば、その時点で株価は上昇します。

このように、M&A交渉は一筋縄ではいかないため、途中経過でいろいろなニュースが出てくるたびに株価が乱高下します。 

 

M&Aが破談になる理由

最終的に買収が成功に終われば、提案価格よりも安い価格で買収ターゲットの株を買えれば儲かるわけですが、買収が破談になる理由はいくつもあります。

例えば、買収される側が買収する側に、もっといい条件で買収しろなどせまって、それを買収する側が飲めずに破談に終わる場合もあります。

あるいは、A社がB社を買収しようとしていたら、横からC社がもっと良い条件でB社に買収をせまって、結局A社が負けてしまうとか。まあこの場合、B社株をもっていた人にとっては良いでしょうが、シナジーが見込めると思いA社株を買った人は損をする場合があります。

一方で、そもそもA社がB社を買うことによるメリットがないと思われていれば、買収の破談によってA社株が上げるということもよくあるのですが(笑)。

で、大企業同士のM&Aが失敗に終わる理由でよくあるのが、独占禁止法に抵触するからダメなどといった司法判断、あるいは国家の不利益になるからダメといった政治的判断からのブロックです。

今回のM&A案件は、まさにその政治的判断から破断になるリスクをかかえています。

 

QualcommによるNXPの買収案件

さて、今回Financial Timesの記事になっているQualcommによるNXPの買収案件ですが、もうかれこれ2年近く続いています(笑)。

Qualcommはアメリカの通信機器・半導体の設計開発を行う企業で、NXPセミコンダクターズはオランダの半導体メーカーです。

2年前には1株110ドルで提案されていたのですが、ヘッジファンドがこぞって乱入してきて、現在は1株127.5ドルで提案されています。

記事によると、NXP株の実に41%をヘッジファンドが持っているそうです。つまり、世のヘッジファンドは、最終的にこの買収案件が成功してNXP株は現在の提案価格である127.5ドルで買われるだろうと思っているわけです。

ところがこの案件、実は多大な政治リスクをかかえています。

 

米中貿易戦争

QualcommとNXPのような大型買収案件は、企業活動をしている各地域において、独占禁止法に抵触しないという規制当局の承認が必要です。

日本やEU、韓国ではすでに承認済みなのですが、現在中国だけからはまだ承認が得られていません。これが最後の関門になっているのです。

今年の上旬はみな楽観的にみていたのですが、米中貿易戦争が始まると、当案件は米中間の政治交渉の材料となってしまいました。

最近まで、トランプ政権は米国企業が中国通信機器大手のZTE社と取引することを禁止していたのですが、その禁止措置を解除したことで、中国もQualcommによる買収を承認するのではという見方が広がっていますが、どうなるかは分かりません。

QualcommとNXPの両社は、M&Aの交渉期限を7月25日に設定しており、それまでに中国からの承認が得られなければ破談になると見られています。(期限の延長の可能性はゼロではないですが。)

実は、提案価格127.5ドルに対して、NXPの現在の株価は103ドルですから、あまり楽観視されていないというのが現状です。

ちなみに、Qualcommは最近まで、シンガポールの半導体メーカーであるBroadcomの買収ターゲットとなっていましたが、アメリカが通信産業でイニシアティブを取れなくなることを恐れて、トランプが買収のブロックに署名して破談になっています。

ブレークアップフィー

M&Aには、ディールが破談に終わった場合、買収しようとしていた企業がターゲット企業にブレークアップフィー(Breakup Fee)というものを支払います。要は、いろいろ時間と手間をかけさせたこと対する慰謝料のようなものです。

今回のディールでは、$20億ドルのフィーがNXP側に支払われることになっています。

M&Aが破談に終わった場合、おそらくNXP株の最初の反応としては下げるでしょう。一方でQualcomm株は短期的には上がると言われています。というのも、ディールが破談に終わった場合、約$400億ドルもの自社株買いをすることを発表しているからです。

Qualcomm株は、その他半導体セクターが上昇する中で、今年すでに8%も下げています(一時期、20%超も下げていました)。いろいろな問題を抱え、長期的な見通しは必ずしも良好ではない中で当M&Aがどうなるか非常に注目されています。

まとめ

今回は、QualcommによるNXPの買収案件を例にして、イベントドリブン戦略のひとつ、リスクアービトラージを説明しました。

リスクアービトラージもそんなに簡単ではなくて、買収する企業、される企業の経営陣と会って本気度を確かめたり、今回のように政治リスクがどの程度かを見極める能力が必要です。

 

追記(2018/7/30)

結局、中国からの承認はニューヨーク時間の7/25を過ぎても得られず。翌日NXPは90ドル手前まで売り込まれました。一方のQualcommは、上述の通り6%超の上げを記録することとなりました。

 

 

米中貿易戦争。アメリカが弱気になる理由はゼロ。窮地の習政権。

こんにちわ。佐藤です。

3週間ほど前にこんな記事を書いたんですが、あれからアメリカ人、中国人含めて詳しい連中からいろいろ情報を得たのでアップデートしたいと思います。

 

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まず、修正点。

前回私は、どこかの段階でアメリカ側からトーンダウンするのではと見ていましたが、どうもなさそうです。

というのも、何度かツイートしていますが、今週から始まったアメリカ決算が予想通り強くなりそうで、アメリカのファンダメンタルが非常に強いため、貿易戦争によって米株が下がるというシナリオはなさそうだということです。

また、これは貿易「戦争」であって、中間選挙に向けてリーダーシップを見せたいトランプにとって、株が下がらないのであれば弱気になる必要が一切ありません。実際トランプの支持率は足元上がっています。

反対に、厳しい立場に立たされているのは習政権のほうです。アメリカが発表している関税の対象となる総額は、すでに去年中国がアメリカから輸入した総額を超えており、関税だけで対等の報復をするのは難しくなっています。

そこで世のマネーマネジャーは、中国の対抗措置に目を光らせているわけですが、アメリカが2000億ドルの追加関税を発表してから、中国から一向に話がでてきません。また、中国国内では追加関税の報道が抑えられているらしく、すでに中国政府にとって、この戦いは分が悪いというのを悟っているようです。報道した上で満足いく交渉ができなければ、それは中国政府の面目丸つぶれですから。

で、前から言うように、そもそも貿易戦争がなくとも中国経済の減速がこれから徐々に明らかになってくるでしょう。中国政府にとっては、レバレッジ解消と同時に経済成長の舵を取るという、すさまじく難しいタスクが課されていることになります。

ということで、今後はしばらくアメリカ株価が世界株価を下支えするという状況になるかと思います。まあ、アメリカ経済も来年あたりそろそろしぼんでくるサイクルですが。

で、当面の戦略ですが、これは前回と変わらず、「貿易戦争が意識されてリスクオフ」になったときに下値を拾うというイメージで、主に為替の短期プレーに注力したいと思います。

ただ、もうしばらくしたらそろそろドル売りフェーズが来ると思うので、その時はやや長めのスタンスでドルショートを想定しています。

以上、久しぶりの相場トークでした。

 

 

 

 

債券の基礎(7)クリーンプライスとダーティプライス

前回はレポ取引について解説しました。

今回は、実際に債券を売買する際の話です。

早速ですが下の図のような場合を考えてみましょう。額面100円のとある債券が取引されているとします。

クーポンは年利1%で半年ごとの利息払い、つまり債券保有者は半年に0.5円の利息が入るとします。

また利息支払い日は毎年5月と11月の15日とします。

 

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今、2017年8月30日にこの債券の売値が98.5円だったとします。ところが実際にこの日にこの債券を買った場合、買い手は98.5円ではなくて98.79円を支払わないといけません。反対に売り手は98.79円を受け取ります。

これは、前回の利息支払い日から売買日までの107日間分の利息

 1円 \times 107/365 = 0.29円

が上乗せされた金額になっています。

こうしないと、売り手は前回の利息受取日から107日間は債券を保有していたにも関わらず、その分のクーポンがもらえなくなってしまいます。

反対に買い手は、例えばクーポン日の1日前に債券を買った場合、1日しか保有していなくても半年分のクーポンである0.5円をそのままもらえてしまうことになります。

これを調整するために、前回クーポン支払日から売買日までのクーポン分が上乗せされた価格で実際の売買が行われることになります。この前回クーポン支払日から売買日までのクーポン分をAccrued Interest(アクルード・インタレスト)、あるいはAccrual(アクルーアル)と言います。日本語だと経過利息です。

通常、債券の価格は経過利息を含まない形で値がつきます。これをクリーンプライスと言います。上の例で言うと、購入価格98.5円とか売却価格99.0円とかはクリーンプライスです。

反対に、経過利息が上乗せされた価格をダーティープライス(Dirty Price)と言います。

(ダーティプライス)=(クリーンプライス)+(経過利息)

です。

 

実際に上の例でみると、債券購入者は購入時に

98.5+0.29=98.79円を支払い、

保有期間中に0.5円のクーポンを受け取り、そして売却時に

99+0.33=99.33円を受け取ることになります。

 

ところで、経過利息を計算する際に前回クーポン支払日から売買日までの実日数を365で割って求めましたが、この計算の仕方は国や債券の種類ごとに変わってきます。

日本国債の場合、実日数/365によって経過利息が計算されますが、例えば米国債の場合、実日数/実日数という形が取られます。

例えば上の例で言えば、2017年5月15日から2017年11月15日までの実日数は184日ですから、

 0.5円 \times 107/184

が経過利息になります。

また、米国債でも満期が1年以内のT-Billやその他の短期証券は実日数/360という形が取られます。この経過利息の計算の慣習を「Day Count Convention」と言いますが、取り扱う元本が大きくなればなるほど効いてきますので注意が必要です。

 

 

ワールドカップ。ゴールドマンのAI予想は3回も修正した挙句、またも無残に散った。

こんにちわ。佐藤です。

もはやネタと化しているゴールドマンのAI予想についてです。過去2回の記事はこちらをご覧ください。

 

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現時点で彼らは大会に入ってから3回予想をアップデートしています。

●大会前に予想発表。(決勝ブラジル対ドイツでブラジル優勝)

●6/26に第1回予想修正。(決勝ブラジル対イングランドでブラジル優勝)

●7/2に第2回予想修正。(決勝ブラジル対クロアチアでブラジル優勝)

●7/9に第3回予想修正。(決勝ベルギー対イングランドでベルギー優勝)

 

詳細は過去記事を参照ください。

ちなみに第3回目の予想修正時点ではベスト4がすでに確定していました。その後ベルギーはフランスに負け、イングランドはクロアチアに負けたので、思いっきり外れたことになります。

まだ決勝の予想はしてないようですが、もうさすがにしなくていいですね(笑)。

彼らの予想が当たらない理由については、過去記事

『ワールドカップ。なぜゴールドマンのAI予想は全然当たらないのか。 - 佐藤茂のときどき真面目な金融日記』

で書いた通りなのですが、基本的にはそもそも非常に難しい問題に、無謀にも何の武器も持たずに挑んでいるわけなので、うまくいくわけがありません。

個人的には、4年後のワールドカップまでにインプットとして使えるデータがどこまで整備されているのかに非常に興味があります。

ビッグデータの中でもスポーツというのは非常に巨大なマーケットで、今後特に資金流入が見込める分野です。そういった観点からスポーツの進化を眺めてみるのも面白いかもしれません。

 

 

 

 

 

ワールドカップ。なぜゴールドマンのAI予想は全然当たらないのか。

こんにちわ。佐藤です。

残念ながら日本はベルギーに惜敗してしまいましたが、今回はワールドカップネタです。ちょっと前にこんな記事を書いたんですが、その続きです。

 

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目次

 

ゴールドマンの直近予想を振り返る

ベスト8が出そろったところで、ゴールドマンのAI予想をふりかえってみたいと思います。

6/26時点で、グループA~Dはすでに全対戦が終了しており、決勝ラウンド初戦のうち半分の対戦はすでに決まっていました(下図赤枠)。また、グループE~Hについても最終節を残すのみとなっており、どのチームが決勝ラウンドに進むかほぼ見えている状況でした。

当時の情報を全部織り込んだうえでのゴールドマンの予想が下図のとおりです。

 

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ベスト8の顔ぶれが決まった現時点で、その予想を振り返ってみると以下の図のようになります。

 

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当たっていませんね(笑)。ゴールドマンがベスト8に残ると予想したチームのうち、4チームが敗退しました。当たったのは、フランス、ブラジル、ベルギー、イングランドだけです。予想された準々決勝の対戦のうち、実現したのはブラジルvsベルギーだけとなっています。

ゴールドマンは、6/26に予想をアップデートしたわけですが、大会前にも予想をしており、その時はブラジルとドイツが決勝に進むと言っていました。また、ロシアはグループリーグで敗退、サウジアラビアが決勝ラウンド進出、当然日本が決勝ラウンドに進むとは予想しておらず、など外しまくっています。

 

なぜゴールドマンのAI予想は当たらないのか

予想が当たらない理由は以下の2点だと思います。

 

(1)使っているデータがイケてない

(2)そもそも短期決戦の予想をするのが非常に難しい

 

1.使っているデータがイケてない

前回の記事でも書いた通り、機械学習を使った予想の成否の大部分は「何をインプットとするか」にかかっています。モデル自体はいろいろなものを組み合わせて使えばいいんです。

彼らの予想は、ELOランキングに基づいたチーム力や、各プレーヤーの能力、直近の成績などをもとにしています。多少凝ってはいますが、結局のところ「良い選手がたくさんいる直近好調な強いチーム」という素人でもできる予想に似ています。実際、ゴールドマンの予想が素人よりも優れているとは思えません。

スポーツはなんでもそうですが、サッカーの場合特に、チームの雰囲気、モチベーションが大いに影響します。また、プレースタイルの違いによる相性の良し悪しもあります。気温が高いところでは、名のあるベテラン選手より、スプリントを繰り返せる若手を多く抱えたチームが有利でしょう。

サッカーというスポーツを予想する場合、こういったデータも取り込んで、説明力のあるインプットを構築しないとかなりしんどいと思います。

 

2.そもそも短期決戦の予想をするのが非常に難しい

もう1つ、仮にそれができたとしてもそもそも短期決戦の予想は非常に難しいです。ランダムな要素が大きいからです。

例えば、日本vsコロンビア戦では開始3分にコロンビア選手が退場になったことで日本が勝利を収めましたが、ほぼ90分を11対10で戦うことになると予想するのは不可能です。

1試合で優劣をつけるのではなく、日本vsコロンビア戦を10回行った上で、成績の良い方に勝ち点3を与えるとかであれば、日本がコロンビアから勝ち点を奪うことはおそらく無理でしょう。ランダムな要素が除去されて、真の実力を反映しやすくなるからです。

例えば、ワールドカップが現在の形式ではなくて、出場32カ国をひとつのリーグにして1年かけてホームアンドアウェーで戦わせれば、予想はグンと当たりやすくなるはずです。

また、決勝ラウンドでPK戦にまでもつれこめば、それはほぼランダムです。

 

ゴールドマンの最新予想(7/2時点)

ちなみにゴールドマンは懲りずに(笑)、7/2にも再度予想をアップデートしています。以下の図がそれです。

 

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早速、スウェーデンvsスイス戦の予想を外しています。今回は、ブラジルvsクロアチアが決勝の顔ぶれになると予想していますが果たして。

 

なお、ドイツが優勝すると私が予想していたのは内緒です(笑)。

 

 

住宅ローン。日本では変動型が過去最高に。香港でも固定型が減少。そのまったく異なる理由とは。

こんにちわ。佐藤です。

昨日、日経でこんな記事が出ていました。日本では、住宅ローンの返済金利を変動型で借りる人が過去最高に達したという内容です。

 

www.nikkei.com

 

『住宅ローンを変動型金利で借りる人が急速に増えている。2017年度下期に借り入れをした人の56.5%を占め、前年同期に比べて9ポイント増え、過去最高になった。超低金利が長期化するという観測に加え、マイナス金利政策の導入後に銀行間で過熱した固定型での金利競争が一服した面もある。』とのこと。

実は香港で似たような現象、つまり変動型金利が足元増えているという状況が起こっています。しかし、理由はまったく違います。むしろ真逆と言ってもよいでしょう。

香港では、大手銀行が固定金利型の住宅ローンを意図的に停止しており、変動金利型でしかローンを組めないようになっているのです。日本では好んで変動金利型ローンを選択しているのに対し、香港では固定金利型ローンを組みたいのに、変動金利型ローンしか選択肢がないという真逆の状況です。

 

 

www.bloomberg.com

 

香港で住宅ローンを提供している主要銀行のうち、

・Bank of East Asia

・Industorial & Commercial Bank of China

・HSBC

・BOC Hong Kong

はすでに固定金利型住宅ローンを停止しています。

理由は、香港では今後金利の上昇が見込まれており、固定金利型ローンが銀行にとって負担になるからです。背景には香港ドルのペッグ(Peg)制度と米金利の上昇があります。

ペッグ制とは、自国の通貨と特定の通貨の為替レートが一定に保たれるようにする制度で、HKMA(Hong Kong Monetary Authority:香港の中央銀行に相当)は1米ドル=7.75~7.85香港ドルとなるように調整しています。香港は経済規模が小さく、変動相場にすると通貨が不安定になるため、このような制度をとっています。

今アメリカは金融危機以降続けていた緩和政策を終わらせ、利上げ局面の真っただ中にあります。為替レートがペッグされているのであれば、香港ドルを売ってたくさん金利をもらえる米ドルを買おうとします。いわゆるキャリー・トレードです。そのおかげで、直近1年、USD/HKD為替レートは、レンジ下限の7.75からレンジ上限の7.85まで一気に上昇しました。

 

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こうなってくると、レートがレンジ内に収まるように、HKMAが為替介入します。つまり、マーケットから香港ドルを買い上げるわけです。すると、市場に流通している香港ドルの量が減少、価値が希少になりますから、市場で香港ドルを借りる際につく金利が上昇します。つまり、結果的に米金利の上昇に追随することとなります。

以下は3か月ものの米ドルLIBORとHIBORの推移です。HIBORは、LIBORの香港バージョンで、香港の主要銀行間で香港ドルを貸し借りする際につく金利のことです*1

 

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ここ数か月で、HIBORが米金利に追随するように急上昇しているのが分かります。4か月前は1%少々だったのが、いまや2%超えです。

米ドルに対するペッグ制をとっている限り、香港の金利は米ドル金利に追従せざるをえません。FEDが利上げを見込んでいる限り、香港の金利も上昇すると見込まれます。したがって、銀行からすれば固定金利ではなくて変動金利で住宅ローンを組ませたいわけです。

香港はもともと変動金利型住宅ローンがスタンダードだったのですが、今年の2月時点で新規住宅ローンにおける固定金利型の割合は28%にまで増えていたそうです。1年前にはわずか1.9%でした。

ところが今回、金利の急上昇および将来の見込みをうけて主要銀行が固定金利型住宅ローンを停止したわけです。

ちなみに香港の平均的な家計では、月収の実に60%!が住宅ローンの返済に充てられているそうです。今後金利が上がり、この割合が70%にまで上昇するとか。おそろしいですね...

 

*1:LIBORについてはこちらを参照。

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スワップの基礎(3)OIS(Overnight Index Swap)とテナー・ベーシス・スワップ(Tenor Basis Swap)

スワップの基礎シリーズ第3弾です。

第1回は金利スワップの基礎について、そして第2回は金利スワップの想定元本表示について解説しました。

この回では、OISとテナー・ベーシス・スワップについて説明します。

 

OISとは

OISとはOvernight Indexed Swapの略で、「オーアイエス」と呼びます。金利スワップの仲間で、変動金利と固定金利を定期的に交換するという部分では同じです。ただし、変動金利の指標として3ヶ月物や6ヶ月物のLIBORではなく、翌日物金利(日本の場合は無担保コール翌日物)を日次で複利運用した場合に得られる金利を使います。
 例えば、想定元本100億、満期1年、交換頻度3か月のOISが3%で取引されているとします。ちょっとややこしいですが、それは100億円に対して、固定金利3%分の金利と、翌日物金利を過去3か月毎日複利運用して得られた分の金利を交換するということを意味します。それを満期まで3か月ごとに繰り返します。この時の固定金利をOISレートといます。今の例では、3%がOISレートとなります。

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例えば、契約開始初日の無担保コール翌日物レートを O_1、次の日を O_2...として、最初の3か月の営業日が63日あったします。すると変動金利の支払い分は、

 100億円 \times \left(  \left(  1+ \frac{O_1}{365} \right) \left( 1+ \frac{O_2}{365}\right) \cdot \cdot \left( 1+ \frac{O_{63}}{365} \right)-1 \right)

となります。土日は除いて、その場合金曜日の翌日物レートに \times \frac{3}{365}をして複利運用していきます。固定金利の受け取り分は、

 100億円 \times 3.0\% \times 0.25 = 0.75 億円

になります。こういった交換を満期まで続けるのがOISです。

 

テナー・ベーシス・スワップ

OISについての説明を進める前に、テナー・ベーシス・スワップ(Tenor Basis Swap)について解説したいと思います。テナー・ベーシス・スワップも金利スワップの一種ですが、通常の金利スワップのように変動金利と固定金利を交換するのではなく、「異なる頻度の変動金利を交換する契約」です。

例えば下の図は、満期2年の、3か月LIBORと6か月LIBORを交換するテナー・ベーシス・スワップのキャッシュフローです。A社は、3か月おきに3か月LIBORを支払う代わりに6か月おきに6か月LIBORを受け取ります。変数が多くてややこしいですが、これを「2 years、3s6s」と言ったりします。

 

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以前フォワードレートの話をしたときに、最初の3か月に現在の3か月LIBORで運用し、残りの3か月を現在のフォワードLIBOR  F_{3 \times 6}で運用したら、それは現在の6か月LIBORで半年間運用した場合と等しいはずだと言いました。実は現実にはこれは正しくありません。これは、信用リスクがゼロの場合には正しいのですが、ほとんどの場合、


 (1+3mL/4)(1+F_{3 \times 6}/4) \leq (1+6mL/2)


となって、後者の値が大きくなります。長期間であればあるほどデフォルトする可能性が高まるために、その分だけ金利を上乗せしてもらわないと割りに合わないのです。実際のLIBORの値はそのように、長期になるほど信用リスクの分だけ高くなっています。

したがって、上の式が等しくなるためには、期間の短い方に、ある程度のスプレッド \alphaをくっ付けて、

 

 (1+(3mL+\alpha)/4)(1+(F_{3 \times 6}+\alpha)/4) = (1+6mL/2)

 

として始めて等式が成立します。

ここから先は煩雑な式を省いて言葉で説明しますが、テナー・ベーシスの場合も同様で、期間の短い方にある程度のスプレッド \alphaを付けて取引します。そうすることで始めて

(受け取り分の現在価値)=(支払い分の現在価値)

という、スワップ締結の条件が満たされます。つまり実際のテナーベーシスのキャッシュフローは下の図のようになります。

 

f:id:shigeru_sato:20180617213822p:plain

 

そしてこの年率換算した \alphaのことを「テナー・ベーシス・スプレッド」と言います。あるいは単にこれを指して「テナー・ベーシス」と言ったりもします。今の場合は、「2years 3s6s tenor basis」ですね。

LIBOR-OISスプレッド

さて、テナーベーシスを見た上で、改めてOISを見てみましょう。先ほどの3か月おきのOISで見れば、


 100億円 \times \left(  \left(  1+ \frac{O_1}{365} \right) \left( 1+ \frac{O_2}{365}\right) \cdot \cdot \left( 1+ \frac{O_{63}}{365} \right)-1 \right)


という変動する額と現在価値が等しくなるように設定される固定金利のことでした。ここにはスプレッドは乗っていません。したがって、同期間のLIBORよりもOISレートは低くなります。つまり、


 \rm{LIBOR} - OIS \geq 0


です。この、LIBOR-OISスプレッドは、銀行の信用リスクのバロメターとしてあらゆる市場参加者が見ています。OISは期間1日の貸し借りで、信用リスクはほとんどないと見なされていますが、信用リスクが高まってくると、このLIBOR-OISスプレッドは大きくなります。実際に2008年の金融危機の時にはこのスプレッドが急上昇しました。

2008年以前は、無リスク金利としてLIBORおよびスワップゼロレートがそのまま無リスク金利として使われていたのですが、銀行間の信用リスクが強く意識されて以降は、LIBORよりもOISレートのほうが無リスク金利として適していると考えられています。

 

次回は、通貨スワップとベーシススワップ、そして為替ヘッジのコストが金利差とベーシスによって決まるということを見ていきます。

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ヘッジファンドの偉人たち(2)デビッド・アインホーンのグリーンライト・キャピタルが相変わらずの絶不調。業績回復なるか?

こんにちわ。佐藤です。

デビッド・アインホーン(David Einhorn)のグリーンライト・キャピタル(Green Light Capital)が相変わらずの不調で、6月のパフォーマンスが-7%、上半期が終了した時点で2018年は-19%だそうです。この人です。

 

f:id:shigeru_sato:20180630223101p:plain『出典:CNBC』

 

半年で-19%というのは、ヘッジファンドとしてそもそもかなりダメなのですが、株式ロング・ショートという戦略においてはとりわけイケてません。

そこで今回はアインホーンについて紹介したいと思います。

ヘッジファンドの偉人には、ユダヤ系が多くいます。

・ソロスファンドのジョージ・ソロス(George Soros)

・ルネサンス・テクノロジーズのジム・シモンズ(Jim Simons)

・ポイント72のスティーブ・コーエン(Steve Cohen)

・ミレニアムのイスラエル・イングランダー(Israel Englander)

・ポールソンのジョン・ポールソン(John Paulson)

 

などなど。アインホーンもユダヤ系です。今年で50歳なんですが、上の写真の通り今でも若々しくて、童顔で有名です。それこそ彼が若くして名声を得てメディアに出てきたときなんかは、声も顔も少年のようでした。

 

若かりし頃のアインホーン

f:id:shigeru_sato:20180701013421p:plain『出典:CNBC』

 

うーん、若い(笑)。

彼は、ヘッジファンドで働いたあと1996年に90万ドルの資金を元手にグリーンライト・キャピタルを設立します。半分は両親から借りたお金です。彼の手法はロング・ショートと呼ばれる戦略で、企業のファンダメンタル分析を駆使して、割安な企業をロングして割高な企業をショートして利益を上げるものです。ヘッジファンド業界でもっとも多いタイプで、手法としては非常に古典的なものです。

彼は父親がベンチャーキャピタルを経営しており、その父の血を受け継いで若いころから企業分析の才能があったのでしょう。順調に好パフォーマンスを積み上げていきます。

特に彼は「ショートの名手」として有名です。

2002年、彼は中小企業向け融資をビジネスとする企業アライド・キャピタル(Allied Capital)が、保有する流動性の低い証券およびローンの評価を意図的に釣り上げて会計処理しているとして、彼自身アライド株をショートしていることを公言します。

これに怒ったアライドは、反対にアインホーンの行為が株価の不正操作に当たると主張、アインホーン自身がSEC(米証券取引委員会)の操作対象になってしまいます。この両者のやり合いは長期間に及び、世間の大注目を浴びることになります。そしてアインホーンの発表から5年後の2007年、SECはアライドに不正があったことを認め、アインホーンの勝利という形で決着を見るのです。

結局アライドはその後、保有企業の倒産を受けて株価が大暴落。他者に買収されることとなります。

また、彼の名声を決定的にしたのは2008年のリーマン・ブラザーズのショートです。彼は、リーマン・ブラザーズがCDO(債務担保証券)の損失計上を正しく行っておらず、投資家に対するディスクロージャが不十分であると主張し、自身がリーマン・ブラザーズ株を大量に空売りしていると公言します。

そして当時リーマン・ブラザーズのCFOであったエリン・キャレン(Erin Callan)との電話会談を、回答が不十分であると批判し株価を下落に追い込むのです。

 

ちなみに、このリーマン・ブラザーズの空売りがあったものの、2008年にグリーンライトは-23%という、設立以来の大負けを喫しています(笑)。

当時リーマン・ブラザーズにいた私の友人の何人かは、野村に移籍あるいは職を変えることになるわけですが、皆アインホーンが大嫌いです(笑)。別に、リーマンがつぶれたのはアインホーンのせいではないですが。

いずれにせよ、彼はうさん臭い企業を徹底的に分析して、いかさまを明るみにして空売りを仕掛けるというのを非常に得意にしています。彼自身、いかさま企業を探し出して駆逐することは、国、市場、経済に資する社会的に意味のある行為だと公言しています。

そんなグリーンライトですが、ここ数年は絶不調で、特に2014年末から直近(2018年6月末)までのパフォーマンスは-28%と、普通のヘッジファンドなら既に潰れているレベルです。投資家も資金を引き上げており、ここ2年で約30億ドルもの流出に見舞われています、

直近の最大のポジションはGM株のロングですが、6月に入って大幅下落、反対にショートしているTeslaが上昇と苦しんでいます。

彼の不調の原因は、彼の古典的な分析スタイルが時代に合わなくなってきていると見られています。これに関しては、アインホーンのみならず例えばPershing Squareのビル・アックマンにも当てはまるのですが、ワンマンで成功してきたファンドの場合、血の入れ替えを行わずにスター創業者が一昔前と同じ感覚でワンマン運用していると、こういった窮地に陥りやすいように思います。

果たして、アインホーンかここからかつての隆盛を取り戻すことができるのか見ものですね。

 

スワップの基礎(2)金利スワップの想定元本表示

前回、金利スワップとはどういうものかについて解説しました。

今回は金利スワップの想定元本表示について見てみましょう。

まず、その前に「想定」元本という言葉の意味を説明します。前回説明したように、金利スワップとは、期中の金利部分だけを交換する契約なのですが、実際に満期時に想定元本を取引したと考えても構いません。すると下の図のようなキャッシュフローになります。

 

f:id:shigeru_sato:20180630165633p:plain

 

満期に元本を交換したところで、同額のキャッシュが相殺されるので、根本的に影響はありません。同じ額のキャッシュを交換することに意味はないので、現実にそんなことはしないだけです。

ただこうして考えるとうれしいことがあります。B銀行にとっては、これはクーポンS%、満期3年、半年ごとに受取りの固定利付債をロングし、満期3年、半年ごとに6か月LIBORを支払う変動利付債をショートしていることにほかなりません。つまり、スワップレートを考える際に、

(固定利付債の価格)=(変動利付債の価格)

となるようにスワップレートが決まると考えてもよいわけです。固定利付債と変動利付債の価格についてはすでに『債券の基礎』で解説した通りです。固定利付債の価格は、将来のキャッシュフローをその資産のディスカウントレートで現在価値に直して足せばよいわけです。上の例の場合

(固定利付債の価格)

 = (S/2)/(1+6\rm{m}L/2) + (S/2)/(1+12\rm{m}L/2)^2 + (S/2)/(1+18\rm{m}L/2)^3

 + (S/2)/(1+24\rm{m}L/2)^4 + (S/2)/(1+30\rm{m}L/2)^5 + (100+S/2)/(1+36\rm{m}L/2)^6

となります。スワップをbondと考えた場合の固定側のディスカウントレートは、LIBORを使わなければなりません。なぜなら、スワップレートはあくまでもLIBORと交換するものであって、通常のbondのように、取引を締結する相手企業・銀行の信用をもとに発行されるものではないからです。スワップは、LIBORと同じく、それを構成する国際銀行の信用リスクを取引していると考えてもよいでしょう。

この上の式が変動利付債の価格と等しいわけですが、ここで「変動利付債の価格は額面と等しい」という事実が威力を発揮します。つまり、

 S/(1+6\rm{m}L/2) + S/(1+12\rm{m}L/2)^2 + S/(1+18\rm{m}L/2)^3

 + S/(1+24\rm{m}L/2)^4 + S/(1+30\rm{m}L/2)^5 + (100+S)/(1+36\rm{m}L/2)^6 =100

となるわけです。

ところが、ここでひとつ問題があります。LIBORはありとあらゆる契約・デリバティブに顔を出してくる超重要な金利なのですが、12か月以内の短期までしか存在しません。つまり、上の式での18mL以降は直接観測できません。

それではどうするかというと、『債券の基礎』のブートストラップ法のところで説明したように、すでに市場に出回っているスワップレートをもとに長期LIBORを逆算するということをします。スワップは国債市場と同じく非常に巨大なマーケットで、常時スワップレートの買値と売値が市場で提示されています。

スワップの固定側に想定元本を加えてbondとして見ると、それは価格が変動利付債と同じ、つまり額面と同じですからこれはパー債です。つまり、スワップレートとは、最終利回りがクーポンと等しいパーイールドに他なりません。

『債券の基礎』で、価格と最終利回りとゼロレートの関係を見ましたが、スワップの固定側をbondとして見た場合、価格は常に100のパー、最終利回りがスワップレートS(これはクーポンに一致)、そしてゼロレートがLIBORに相当します。

 

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さて『債券の基礎』で、市場に出回っているゼロクーポン債と固定利付債からブートストラップ法を用いてゼロを求めることができると言いました。

スワップでもまったく同様です。既知のLIBORと市場で取引されているスワップレートから、逐次的に12か月以上の長期LIBORを求めていきます。そして同様に、イールドカーブを引いて補間することで、任意の期間のLIBORを推定するわけです。

最終利回りに相当するスワップレートをプロットしたものをスワップカーブ、LIBORをプロットしたものをLIBORカーブ、あるいはスワップゼロカーブと言ったりします。繰り返しになりますが、LIBORとスワップは同じ信用リスクであり、最終利回りに相当するものがスワップレート、ゼロレートに相当するものがLIBORあるいはスワップゼロレートです。例えば、そのイールドカーブは下のようになったりします。(『債券の基礎』で使ったものと同じ図ですが笑)

 

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次回は、OISとテナーベーシススワップについて解説します。  

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スワップの基礎(1)金利スワップ

このシリーズでは、スワップを解説していきたいと思います。一口にスワップと言っても、金利スワップや通貨スワップ、為替スワップなど、多種多様です。全種別をひとつひとつ見ていくことはしませんが、主要なスワップの基礎を解説していきたいと思います。

このシリーズは、『デリバティブの基礎の基礎』および『債券の基礎』の知識を前提にしていますので、まだ読んでいないという方はまずそちらを一読されることをお勧めします。

目次

金利スワップ

スワップの基礎シリーズ第1回目の今回は、金利スワップ(Interest Rate Swap)です。略してIRSと言います。これは今後に出てくる金利関連プロダクトの一番のおおもとになるものですから、しっかり理解しましょう。

金利スワップとは、簡単に言うと「同じ通貨の固定金利と変動金利を交換する契約」のことです。この際の変動金利として使われるのが『デリバティブの基礎の基礎』に出てきたLIBORです。つまり、「固定金利とLIBORを交換する契約」です。

今A社とB銀行との間で、「想定元本100億円、期間3年、半年毎支払い、固定年率3%」のスワップを締結したとしましょう。A社がB銀行に3%の固定利率を支払い、代わりに日本円の6か月LIBOR(¥6mL)を受け取るとします。固定金利は実線矢印、変動金利は点線矢印で表しています。 

この際、固定金利の支払い側であるA社は、スワップを「ペイ(pay)する」と言います。また、固定金利の受け取り側であるB銀行は、スワップを「レシーブ(receive)している」と言います。

 

f:id:shigeru_sato:20180629120439p:plain

 

実際の各矢印の値を見ていきましょう。

現在の時点で、半年ごとに支払う固定金利はすでに決まっています。

 100億円 \times 3 %\times 0.5=1.5 億円

です。変動金利分は、支払いの半年前の6か月LIBORで決まります。スワップを結んだ時点での6か月LIBORが仮に2%だったとすると、6か月後の第1回目の変動金利分は

 100億 \times 2 % \times 0.5=1 億円

となります。第1回目の支払い額だけは現時点で決まっていますが、第2回目の変動金利分は半年後、第3回目の変動金利分は1年後にしか分かりません。

今仮に、6ヶ月後以降の6ヶ月LIBORが以下のような値だったとします。するとこのスワップのキャッシュのやり取りは以下の表のようになります。

 

f:id:shigeru_sato:20180616003407p:plain

 

この通りに進めば、A社はこのスワップから損が出ることになります。誰も、損失が出ると分かっている契約を結ぶはずないですから、スワップは契約時点では双方にとって価値がゼロでなければなりません。つまり、締結時点で予測される変動支払い分の価値と、固定支払いの価値が等しくならなければなりません。

(締結時の固定払い分の価値)=(締結時の変動払いの分の価値)

が成り立つように、固定年率が決められるのです。この利率をスワップレートと言います。スワップレートについては、次回詳しく見ていきましょう。

金利スワップの目的

金利スワップ締結の目的としてはよく以下の2つが挙げられます。

金利リスクのヘッジ

例えば、ある企業Cが銀行からローンで資金を調達したとします。バンクローンは、クレジット格付があまり高くない企業がお金を借りる手段としてしばしば使われます。bondと比較して比較的短期で、返済がLIBOR+ \alphaという変動金利で行われるのが特徴です。LIBORに上乗せする分の \alphaは、借り手の信用リスクによって変わってきます。当然、信用リスクが低い企業ほど、多くの金利を上乗せしないとローンが組めないことになります。

ローンを組んだ借り手企業は、将来の金利が上昇すると返済額が増えるというリスクにさらされることになります。そこで、現時点でスワップを締結することで、変動金利を固定金利に変換し、将来の金利変動リスクを除くことができます。

将来の金利の動きに対するベット

もしも、将来の金利の動きに対する知見があり、そこから収益を上げたければ、スワップを締結することで実現できます。

例えば、金利が将来金利が上昇すると思えば、スワップをペイすれば利益を上げられます。将来5年間にわたって3%の固定金利を支払う約束をした後に、金利がどんどん上がれば、上昇した変動金利分の利息を将来受け取れる代わりに、支払いは常に3%でいいからです。

反対に、金利が下がると思えば、スワップをレシーブすることで利益を実現できるでしょう。

 

次回は、金利スワップの想定元本表示について説明します。

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なぜ西野戦略が批判されるのか。W杯日本 vs ポーランド戦に見る日本の国民性。

こんにちわ、佐藤です。前回に引き続きW杯ネタです。

すでにご存じだと思いますが、昨夜のW杯グループ最終戦で日本のとった戦略が批判にさらされていますが、個人的には「なんで批判されなあかんねん」という印象です。

特に、海外メディアの批判は無視しておけばいいでしょう。日本人は、自分たちが海外からどう見られてるかというのを異常に気にする民族ですが、はっきりいって放っておけばいいです。ルールにのっとった行動であり、あれの何が非スポーツマンシップなのかもわかりません。

ところで、今回私が注目したのは自国メディアからの批判です。主力を温存して決勝トーナメント出場を決めた上に、控え組で使えそうな選手とそうでない選手の見極めもできたのですから、最高の結果です。『結果がすべて』という観点からすれば100点満点といってもいいでしょう。(ちなみに自分はその考えではありませんが。)

ところがまさかの批判続出。批判の内容を見るに、大きく分けて2つあると感じています。

 

(1)戦術が恥ずかしい。他国に申し訳ない。

(2)結果的に幸運だっただけで、あまりにリスキーすぎる。

 

です。それぞれ見ていきましょう。

(1)戦術が恥ずかしい。他国に申し訳ない。

同時に行われていたコロンビア vs セネガル戦で、コロンビアが先制したのをいいことに、負けているにも関わらずボールを回して0-1での負けを狙った日本ですが、恥ずかしいどころかあの時点でのベストの戦略だったと思います。

サッカーに限らず、その時点で勝利に近づく確率が最大となる戦略をとるというのがスポーツの鉄則です。

さらに言えば、これはスポーツに限った話でもありません。トレードも同じです。常にその瞬間その瞬間、自分のブックのリスクリワードを確率的に最大にするというのがトレーダーの仕事です。もちろん簡単ではないですし、いろいろなシナリオに主観的に確率をアサインするというのは正確にはできません。が、大まかな数字をはじくということをするわけです。

その観点から言えば、あの時点で西野監督のとった戦略は相当優秀だと思います。あの時点、あの面子で1点を取りに行って成功する確率は極めて低い。前がかりになって、すでに何発かくらっていたカウンターの餌食になるほうがこわい。それよりもコロンビアがセネガルを抑える確率にかけよう、と。

妥当だと思います。そしてそれを恥ずかしいと思う必要はゼロです。「セネガルに申し訳ない」という声もありますが、「???」です。セネガルはコロンビア相手に自力で1点でも取ればよかったわけですから。

こういう考えは、海外からの目を異常に気にする日本人の性質なのかなと思いますが、「批判するいわれもなければ、卑下する理由もない」というのが自分の考えです。

 

(2)結果的に幸運だっただけで、あまりにリスキーすぎる。

こっちの批判が出てきたことが自分としては少々意外でした。さっきも書いた通り、結果だけ見れば最高です。ところが、あまりに綱渡りだったのが気にくわないというわけです。この主張、一見ただしいように思います。

よく投資の世界の話で、投資家はRisk Averseと言われます。要はリスクを好まないわけで、それはマーケットの色々なところから観察されています。で、その中でも日本人は究極のRisk Averse民族です。結果的にうまくいったけど、セネガルがコロンビアから1点でも取っていたらグループ敗退の状況で、ヒヤヒヤさせすぎだ。という心理が背景にあっての批判でしょう。

ところが、さっきも言ったように、あの時点で、いくつかの可能性を天秤にかけた場合、西野監督のとった戦略がもっとも合理的だと思います。もちろん、仮にセネガルが先に1点をもぎ取った場合、日本は一気に前がかりになっていたでしょう。しかし、まだセネガルが無得点のあの時点で、前がかりになってカウンターをくらうリスクを避けたというのは私にとっては妥当な判断だと思います。

 

はてさて、いずれにせよなんとかノックアウトに進んだわけですから、史上初のトップ8を目指して頑張ってほしいです。

アザール、デ・ブルイネ、ルカク、フェライニ、コンパニなどなど。でもって最後にはクルトワがいて、昨夜はなつかしいヤヌザイがゴールと強敵ベルギーが相手ですが、期待しましょう~。

 

 

ゴールドマンのAI予想によると、ワールドカップはブラジルが優勝するらしい。

こんにちわ。今回は巷で盛り上がっているワールドカップについてです。

ゴールドマンがAIを使ってワールドカップを予想したところ、ブラジルが優勝するというレポートを書いていたので共有したいと思います。

World Cup final showdown between England and Brazil, Goldman Sachs says - Business Insider

すでに大会が始まって2週間経過したわけですが、予想をアップデートしたというのが上の記事です。

ゴールドマンのワールドカップ予想は今回が初めてではなくて毎回やっているのですが、予想の仕方は毎回違います。

今回はAI、と言いますか機械学習のテクニックを使って予想したとのこと。詳細は書いてないのですが、多数のモデルを使ってそれをアンサンブルにかけるというスタンダードなやり方のようです。

で、この手のAIを使った予想は、モデル自体はほとんど世に知れ渡っていてそこに大して違いはないのですが、いかに結果に対する説明力をもったデータを作り出せるかというのが肝中の肝で、うまくいくかどうかはほとんどそれにかかっています。

ゴールドマンによると、チーム総合力、チームを構成する個人の能力、直近のチーム成績(モメンタム)などを数値化してインプットとしているようです。

大会が始まる前の予想がこれです。

 

f:id:shigeru_sato:20180627200013p:plain

 

で、2週間経過した現時点での予想がこれ。赤枠はすでに決定済みのマッチアップです。

 

f:id:shigeru_sato:20180627200307p:plain

 

まとめると以下のような感じです。

  • 大会前、現時点いずれもブラジルの優勝予想は変わらず。
  • 大会前はブラジルードイツの決勝だったが、ドイツはグループFを2位抜けすると予想変更。ノックアウトの初戦でグループE1位抜けのブラジルと戦って敗退。
  • 現時点ではブラジルーイングランドの決勝を予想。
  • そのイングランドはグループGを2位抜けすると予想。グループH1位予想のコロンビアとノックアウト初戦で対戦。
  • 日本はグループH2位の予想。グループG1位予想のベルギーと戦い敗退。
  • 大会前は日本はグループステージ敗退と予想。
  • 大会前、ホスト国ロシアはグループステージ敗退と予想。(実際は2位通過)
  • 大会前、サウジアラビアのグループ勝ち抜けを予想。(実際は敗退)

現在グループHは、日本とセネガルが勝ち点4で並んで首位ですが、これを見るとコロンビアが1位通過、日本が2位通過となっています。

つまり、グループ最終戦でコロンビアがセネガルを倒して、日本はポーランドと引き分け以下になるということですね。

ちなみにどうでもいいんですが、自分の予想はドイツです(笑)。大会前、大会初戦とイマイチな感じですが、グループリーグ2戦目のスウェーデン戦の終了間際のクロースのゴール、あれでチームに俄然勢いがつくんじゃないかなと。

はてさて、どうなるか楽しみですね~(^^)